Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第15章 歪な感情……憩の場所【ジン】
翌日の昼過ぎ、ジンから着信があった。
「今夜店に行く」
「今日は……夕方の5時以降なら大丈夫」
「分かった、5時に行く」
5時でよかった、とホッと胸を撫で下ろす。(以前夜の9時に突然行くと言われた事もあるからだ)
私には少し前まで彼氏もいたんだけど……
元彼はそもそも、急にどこかの男の資本で独立が決まった私にずっと不信感を抱いていたらしく。
二人でのんびり過ごしていたある夜、いきなりジンから「今から髪を切れ」と言われ断れず、恋人を置いて店に向かった事が引き金となり……どんどんギクシャクして……先月遂に別れを告げられた。
ジンとは出会った当初よりは親しくはなったけど、別に疑われるような関係じゃない。でもいくら説明しても言い訳にしか聞こえなかったようだ。
こういう事態になって初めて知ったけど、“何も無い”ことの証明って難しい。信頼関係が崩れれば、終わりなのだ。
まあ、終わった事を気にしても仕方ないので、彼とは縁が無かったんだ、今は仕事を頑張ろう、と思ってる。
そうして夕方5時になり。勿論私以外誰もいない店にジンはやってきた。相変わらず終始クールな彼は、顔色ひとつ変えずに席に座る。
「どうだ調子は」
「ぼちぼちかな、リピートのお客さんもだいぶ増えてきたし」
「結構だな」
「うん、まあ……今日も、いつもと同じ感じで?」
「ああ、頼む」
いつものように彼の綺麗な髪にハサミを入れていく。
こんなもんか、とカットを済ませ、シャンプー台に乗ってもらった時だった。
「、男と別れたか」
「えっ……!?そう、だけど……なんで」
「いつも同じ物を着けていたと記憶しているが、今日は何も無い。親の形見か、男からの贈り物だと思っていた」
台に仰向けで寝そべるジンが、私の首元に手を伸ばしてきた。たしかにそこは、元彼にもらったネックレスがいつもあった場所。肌を指先でなぞられて、色んな意味で驚いた。
人の事になんて興味無いと思ってたのに。よく見てるんだな……
「別れたの、半分はジンのせいだからね」
「俺が何をした」
「何も。でも何も無いって信じてもらえなかったの」
「……人を信じるから馬鹿を見るんだ」
そう言うとジンは目を閉じ黙ってしまったので、わたしも彼の顔に布を掛けて、お湯を出し始めた。