Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第1章 月夜に現れた紳士は【キッド/快斗】
二週間弱あった実習も、今日が最終日。
全ての授業が終わり、ホームルームで紺野先生のクラスの生徒に挨拶をして。
教室を出て職員室へ向かっていると、帰り支度を済ませた黒羽くんが追いかけてきた。
もう驚くこともない。
「ちゃーん!」
「なに、黒羽くん」
「またな!」
「うん、またね!」
歩いていた私を追い越して、一目散に帰っていく黒羽くん。
追い抜きざまに手を振って無邪気に笑っていた彼は、高校生らしくて凄く可愛いかった。
「またね」と言ったものの、また会うことはおそらく無いだろう。
スムーズに教員試験に受かり、来年ここの高校に赴任する確率は・・・5パーセントくらいか。
職員室で紺野先生に実習内容をまとめたレポートを見せる。
(昨日夜遅くまでかかって仕上げた力作だ)
「うん、こんなもんでしょう!よし!、お疲れ様でした」
「ありがとうございますー!」
「どうだった?二週間」
「正直疲れましたー・・・でも楽しくもあったかな」
「黒羽にかなり懐かれてたね、アイツ普段は遅刻欠席早退の常習犯なのよ?この二週間一度も無かったわね」
「へー!・・・毎日ついて回られて最初はどうしようかと思ったんですけど・・・なんか可愛い弟ができたみたいで無下にもできなくて」
「黒羽もあれで、家族と離れて暮らしてるから寂しいのかもね、のことお姉さんみたいに思ったのかも」
「私、黒羽くんとどこかで会ったことある気がするんですけど・・・」
先生に彼の自宅の場所や家族構成を聞いたが、共通点はなさそうだった。
ただの思い過ごしだったのか。
帰り際に、松田先生に呼び止められて、食事に誘われた。
今日は実家で母がご馳走を用意してるから、と断り、
(教育実習が終わったごときでご馳走らしい)
明日はまた、荷物をまとめて一人暮らしの部屋に戻らなきゃだから・・・
夜なら大丈夫、と約束をして、連絡先を交換した。
断る理由も特に見当たらないのだ。