Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第8章 光の交わるところ【諸伏景光】
「ヒカリさん家まで送ろうか?」
「いやー・・・」
「どうしたいんだよ・・・」
「うーん・・・」
ヒロくんの肩をつんつんとつつき、自分の口の横に手を立てて口をパクパクと動かす。
下がってきたヒロくんの耳元で、囁いた。
「ヒカルとヒカリじゃなくて。ヒロくんとになれる所に行きたいの」
そう言うと、ちょっと驚いたような顔をしたヒロくん。なんか可愛いかも。
「分かった、家でいいか?」
「うん」
コクりと頷いて、ヒロくんの手を握った。今までも手を繋いだことはあったけど、私からっていうのは初めてだ。
タクシーに乗っても手は繋いだまま。私はヒロくんの肩に頭を預ける。
「ちょっと??」
「あ・・・やっと名前呼んでくれたね」
気分がすこぶるいい。お酒のせいか、それとも“ヒロくん”と一緒だからか。
タクシーが彼のマンションに着き、まだフラつく身体をヒロくんに支えてもらいながら部屋に入る。
「ヒロくんお酒あるー?」
「まだ飲むのか」
「飲む!」
渋々出してもらった缶ビールをソファで頂く。ヒロくんもソファの端っこに座ってくる。さっきまであんなにくっついてたのに。自分の店でだってこんなに離れては座らない。
隣をバシバシ叩いて、近くに来るよう促す。
「ヒロくん!もっとこっち!」
「はいはい・・・どうしたんだ?今日は」
「寂しいんだよー・・・」
「そうか寂しいか」
すぐ横に座り直してくれたヒロくんに更にこちらからも距離を詰めて、ピタリと身体の横側がくっつく。
肩に腕が回ってきて、嬉しいような、でもまた複雑な気持ちになってくる。
「ねえ、ヒロくんが私にこうやって優しくしてくれるのはなんでなの?」
「はっ?俺はいつも優しくしてるつもりだけど」
「それは、ヒロくんとしてじゃなくて、ヒカルさんとして?」
「そりゃあヒカルの時は必要以上に優しく接してるかもしれない」
「やっぱりそうだよね」
ふぅ、とため息をつく。
「私、ヒカルさんじゃなくてヒロくんに優しくされたい。デートしたりごはん食べるのもヒロくんとがいいの。ずっとずーっと、今日も思ってた」
「そうか・・・」
「そうだよ」
無言のまま、静かな時間が流れる。
「じゃあ・・・これは俺、景光の気持ちだからな」