Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第8章 光の交わるところ【諸伏景光】
私の目下の悩み事といえば“店を辞めさせてもらえない事”だけど。
そんな事この場で、ましてや黒田の知り合いになんて言えない。
けど、ヒカルさんになら、話しても大丈夫かも、不思議とそんな気がするのだ。
彼が、昔私を助けてくれたヒーローに似てるからだろうか。
でも少し離れた席にはまた違うお客さんと女の子、ボーイだって店内をずっとウロウロしてる。
「もしかして、店じゃ言いづらい事か?」
「・・・すごい。当たり」
「それなら・・・今日店終わったらどっか行こうか、二人で」
「いいんですか?」
「それはこっちのセリフだよ、いいのか?」
「はい。でもオーナーには」
「言わないでおく」
その後ヒカルさんは閉店間際まで店にいて。
「ここで待ってる」と、隣町(黒田の勢力が届いてない地域)のバーの名前を教えてくれて。お会計とは別に私のタクシー代まで置いて、彼は店を出ていった。
程なくして店は閉店になる。すぐに着替えていつもより入念に鏡の前で身なりをチェックし、タクシーを拾ってそのバーへ向かった。
客と仕事終わりに会うこともたまにはある。
けど、今日はちょっと特別な気分だ。ヒカルさんは、他の客とは何かが全く違う。
もしかすると私は彼のこと・・・好きなのかもしれない。
これから酷く重たい話を相談しに行く癖に、頭は何故か少し浮かれ気味だ・・・
その店に着き中に入ると、ヒカルさんは長いカウンターの一番奥で待っていて。こちらに向かって手を上げ、にこりと微笑んだ。
落ち着いた、静かな店。チラリと他のお客さんの顔を伺い、顔見知りでないことを確認して彼の隣に座る。
お酒を頼み、とりあえずグラスを合わせた。
「初めて見るな、ヒカリさんの私服。こんな感じなんだ」
「やっぱりドレスの方が綺麗でしょ?ガッカリしてない・・・?」
「・・・俺は今のヒカリさんの方が好きだな」
「えー!ほんとに!嬉しい」
「ああ。自然な感じの方が断然いい。あ、腹は減ってないか?」
「夜中はあんまり食べないようにしてるんだけどね、ヒカルさんは?」
「俺は実はさっきラーメン食べてきた。多分ヒカリさんはガッツリ食べないだろうと思って」
「あれ?前にもそんな話しましたっけ?」
「いや?ただの勘」
「なんか・・・ヒカルさんって何でも分かるんですね・・・」