第3章 惚れたら負け
頭の悪そうなメイクに極限まで短くしたスカートに。
ゴテゴテのネイルは週に何度かの頻度でカラーチェンジ。
髪型もそのメイクによく似合うバカっぽい緩いウェーブのセミロング。
いつもヘラヘラしてて、声がでかくて笑い声はもっとでかくて。
そう、僕_月島蛍の隣の席の荻原ひまりは、絵に描いたようなバカ女だ。
よくこの容姿と生活態度で進学クラスに入ることが出来たよな、と感心してしまうくらいの、全くのバカ女。
口を開けばやれ野球選手の誰それがカッコイイの、隣のクラスの何だかくんがイケメンだの、外見通り、内面まで期待を裏切らないバカ女である。
進学クラスに入れたくらいだから成績はそれなりなんだろうけど、授業態度一つを取っても呆れてしまうくらいのバカ加減だ。
まず、彼女は授業を聞かない。
大体寝てるかノートに絵を描いて遊んでるか携帯を開いてSNSをしているか。
間違いなくこの三つのうちのどれかが授業中の彼女に当てはまる。
酷いときは授業と関係のない教科書やノートを開きっぱなしで先生に大目玉を食らっている。
どこかの部活に所属しているという話も聞いたことがないから運動も大したことはなさそうだ。
僕は彼女のことを性格がそこそこいいのだけが取り柄のバカ女、という認識をしていはずだ。
確かに、そんな認識だった。
だから有り得ない、と僕は僕に浮かんだ考えを真っ向から否定した。
それでも、そうじゃなければとても説明のつかない感情を、僕は彼女に抱いているらしかった。
所謂『一目惚れ』とかいう、この上なく厄介で困難な感情を、僕は彼女に向けている。
何故好きなのか、少し考えてみたがまったく思い当たる節がなかった。
なぜなら彼女は僕の嫌いな女というものを具現化した女だったから。
ケバいメイクも、バカみたいに短いスカートも、下品な笑い声も、感情をコロコロと変えるその立ち回り方も。
全てが自分が嫌いな女そのもので、だから何故彼女に惹かれたかを考えるのは困難だ。