第3章 惚れたら負け
「ひまりってば!もう、ひまり~」
ガタっと机が動いて、自分が夢から覚めたことを知る。
授業中の仮眠で夢を見たのは初めてだった。
しかも、とても懐かしい夢だ。
ともすれば涙が出そうになるくらいに、懐かしい夢。
及川徹は、自分の命の恩人だ。
命の恩人であり、正義の味方であり、ヒーローであり...あの時の自分の全てだった人物だ。
その懐かしい笑顔に弱音を吐いて抱きしめてもらいたいと何度考えたことがあったか。
それくらい、彼は自分にとって絶対的な存在だった。
「やっと起きたのお?もうお昼だよ、いくらなんでも寝過ぎだしい、昨日寝てないわけ?」
「え、嘘。そんなに寝てた?私」
「寝てたよ」
別の友達にも後ろから声を掛けられ、うへえと声を出す。
うわ、やだな。
寝言とか言ってないといいけど。
歯ぎしりとかしてたら最悪すぎる。
「ていうかあ、ひまり、先輩呼んでるよ?しかもクソ美人」
「先輩い?」
何だそれ、部活に入ってない私を呼ぶ先輩ってどんなだ。
しかもクソ美人って。
ふい、とドア付近に視線をやれば、なるほど黒髪ストレートメガネのクソ美人。
付け足すのならば長身でスタイルがいい。
「なんで私?何の用?」
「そんなの知るわけないじゃん、バカなの?早く行ってきなあ」