第8章 縮まる距離
佐助との再会を果たして早数日。
事件に巻き込まれたりもして大変だったのが嘘のように、毎日平和に過ごしている。
梅は大怪我を負ったが、命に別状はないとのことで安心した。
今どこにいるのかは聞かされていないので分からないが、療養中とだけは聞いている。
…いつかまた会えたら良いな、と思う。
例え敵だったのだとしても、彼女のさくらに対しての優しさは本物で、助けようとしてくれたのも事実。
さくらにとってお梅は母親のような存在だったのだ。このまま別れてしまうのは寂しいし、嫌だった。
今度信長様に聞いてみよう。あの人なら教えてくれるかもしれないから。
また、針子の依頼も増えてきている。
嬉しい反面、頑張りすぎると体調を崩してしまうので程々に頑張っている。
休みの日は幸村と甘味を食べるのが習慣化しているが、佐助の邪魔が入ったり、偶に来る信玄に口説かれつつ、幸村に甘味食べ過ぎだと怒られる姿も見慣れてきた。
信長と敵同士だった筈なのに、安土の城下でこんな風に笑って過ごせるのも奇跡に近いと思う。
これも秀吉様や舞様のおかげなんです、と三成が言っていたのを思い出した。
「うん、完成」
依頼されていた羽織の余りの反物と布で作ったお洒落な手ぬぐい。吸収率を考慮しながら作った自信作だ。
今日はお休みの日なので、幸村と甘味を食べる予定になっている。
いつも美味しい甘味をご馳走してくれるので、そのお礼も兼ねて手ぬぐいを縫っていたのだ。
それとは別にもう一枚、山吹色の模様入り手ぬぐいも仕上げていた。
「…これは渡すタイミング難しい」
幸村には渡せるが、彼には…、山吹色が似合いそうな家康にはどう渡せばいいのか分からない。
そもそも何故家康に手ぬぐいを縫ったのかも分からない。彼に似合いそうな色だと思い、気づけば縫っていたのだ。
「あ!いつも迷惑かけてるし、そのお礼って言えば…!」
体調を崩すたびに家康に診てもらっているのだから、そのお礼も兼ねて渡せば良いだろう。
うん、良いアイディアだ!と、そう自分に言い聞かせて幸村のところへ向かう準備を始めた。