第5章 体質
睡眠薬入りの苦い薬を飲んで熟睡したさくらは、翌朝には体調は回復していた。
「さくら様、体調の方はどうですか?」
「家康さんの薬のおかげで大丈夫です」
「そうですか、それはようございました。では今、朝餉をお持ちしますね」
にっこりと優しく微笑みながら声をかけたのは、女中の梅と言う。
安土城に長年働いており、女中の中でも信頼のおける人物だ。
信長様の計らいでさくら付き女中に任命され、さくらの事を本当の娘のように接してくれている。
「さくら様、今日は政宗様がお作りになったんですよ」
ですから、たくさん召し上がってくださいね!とさくらの前にお膳を置く。
「あと、これは家康様からです」
食事の後に飲むようにと仰せでした、とお膳の横に薬湯の入った湯呑みをおく。それをみてさくらは眉をひそめた。
「…もう体調は良くなりましたよ?」
「一応その旨はお伝えしました。伝えた上で、薬湯を渡されたんですよ」
「…………………」
「家康様は心配されているんですよ。勿論私も同じです。苦くてもちゃーんと飲んで下さいね」
ふふふ、と笑顔でさくらを見る梅。その表情は、薬湯飲むまでここを離れませんと言っているようだった。
「家康さんの用意する薬、苦いんです」
「良薬口に苦し、ですよ」
「…それ、家康さんにも言われました」
ガクッと肩を落とし、渋々薬を飲む姿を見てから梅は部屋を後にする。そしてそのまま天守にいる信長の元へと向かった。
「梅、さくらの様子はどうだ」
「体調は良いそうです。家康様のお薬を嫌そうに飲んでました」
薬を飲む姿を思い出してクスクス笑いながら答える。
梅の話を聞いて、信長は「そうか」と安心する。頻繁に体調を崩すので、信長も表情には出さないものの、さくらのことを心配しているのだ。
「あやつは虚弱体質と聞いている。体調の件は何かあればすぐに家康に言え」
「かしこまりました。あと、新しく入った女中の件ですが…」
「何か問題でもあったか」
「…いえ、今のところは。ただ、さくら様に頻繁に話しかけているようです」
仲が良いのは構わないが、梅には少し気になることがあるらしい。何も起こらなければそれで良い。そう思いながら信長に報告した。