第1章 夜這い
プロローグ
それはある日のことでした。
「足りません」
「デザート頼む?」
「頼みます。でも、それ以外に足りないものがあります」
「なんですか?」
夜、仕事終わりに私は個室の飲み屋さんで夕飯を食べていました。
テーブルに項垂れているのは菜子さん、声をかけたのがあやさんです。2人とも私より1つ年上です。
「敬人が足りませんっ」
「気持ちはわからなくないけど、お仕事なんだし…」
「それはわかっております。わかっているんですが、最近夜の営みが滞ってますっ」
「あ、酔ってるね? 酔っちゃったね、菜子ちゃん」
「あやさん、菜子さんはワクですよ?」
私たちは、知り合ってから3人でご飯を食べに行ったり、買い物に行ったり、お休みが重なれば誰かの家でお泊り会をしたりするようになるくらい私たちは親しくなっていきました。
「この間のお泊りでも敬人は私が食器洗ってる間に熟睡ですよ?」
「本業以外にもいろいろやってるんでしょ? 疲れてるんだよ」
「わかってます、わかってるんですが、せめてマッサージしてる時がよかったです!」
「あれ? 夜の営みはいいんですか?」
「疲れていらっしゃるのはわかってるので、触れ合えれば良いかと思って」
そう、私たちの恋人は、人気アイドルユニット紅月の皆さんです。
菜子さんはリーダーの蓮巳さん、あやさんは鬼龍さん、私は神崎くんとお付き合いしています。私の場合は恋愛関係からではなく、お家のお見合いがきっかけだったんですが、今はお互い好きあってる、はずです。
「紅郎くんも衣装のお仕事も忙しいみたいだよ?」
「あやさんは寂しくないんですか?」
「寂しくないって言ったら嘘になるけど、困らせたくもないから」
「莉央さん、神崎くんの方はどうですか?」
「本業もですが、お家のお仕事も重なってますね。この間ご実家に行った時もお忙しそうで話すことないまま帰りました」
人気アイドルなだけでもすごいのに、紅月の皆さんは他にもお仕事をしているのでいつも忙しそう。神崎くんの場合は、次期当主なためお家のお仕事も兼ねてやっているので大変そうです。