第2章 うつつのゆめ シンドバット [完]
『シンドバッド王様!いい加減にしてください!』
シン「ああ、!君の方から会いにきてくれるなんて嬉しいよ。それもそんなに息を切らせて…やっと俺の愛が届い」
『これ、お返しします』
腕いっぱいに抱えていたものを机の上にどさりと下ろす。
何着あるのかわからない恐ろしく手触りのいいシルクで作られた
綺麗な服(時々布面積がおかしい)、ぴかぴか目が眩みそうな金のネックレス。
こんな贈り物がまだあと二往復分はある。
シン「え、気に入らなかったか?」
『いや気に入るとか気に入らないとかそういう問題じゃなくて。こんな高価なもの受け取れません』
シン「君に似合うと思うんだがなあ」
箱の一つからひょいとネックレスを取り出した王様は、それをわたしの胸元に当ててみせた。
おもちゃみたいな大きさの雫石はでも絶対ガラス玉なんかじゃなくて、日射しを反射してきらきら輝く南の海みたいな水色にくらりと目眩がする。
売ったら一体どれぐらい生活できるんだろう…
『無駄遣いよくない…!』
シン「君が受け取ってくれれば無駄にはならないさ。男からの贈り物は笑顔でさらりと受け取るのがいい女というものだよ」
『頂く謂れがありません』
シン「じゃあ結納金ということでどうだ」
『ゆ……もう、やめてくださいそういう冗談』
シン「ははは、冗談なんかじゃないさ」
(ヤバい今目がマジだった)
シン「ああ安心してくれ、結納金がこれしきだなんて言わないから」
『いえほんとこれ以上なんにもいりません結構です…!』
愛人でも夢のようないい暮らしできそうだよなあって一瞬頭をよぎって、
ぶるぶるかぶりを振る。流されてはいけない。シンドバッド王の国で過ごす毎日はとても楽しいけど、
でも、女癖の悪さに定評のある王様のゴチョウアイを頼みにした生活なんて先行き不安すぎる。目先の欲につられちゃだめわたし。それに。
『わたしはいつかどうにかして国にに帰りますし
そういうわけなので、残りも引き取ってください。お気持ちだけ頂きます』
欲を振り切って立ち去ろうとした背中で、
「……贈るのは、鎖の方が良かったか」
「…王様?」
なにか低く呟く声が聞こえた気がして振り返る。
けれどもそれはわたしの空耳だったのか、王様は「残念だ」と首を振って笑っていた。
(きみをあがなううつくしいもの)
