第2章 汚された未来
ガチャーー
「あ、あっ、こっちに来ないで!」
開かれたとある一室。
四角い間取りをした殺風景の部屋の奥、そこに女はいた。
冷たい感触を肌に突き刺すコンクリートの上、1人の女性は床にお尻をつけた状態で、部屋にやって来た人物に目を見開く。そんな女性に、男は舐め回すように見る。
白のブラウスに、黒のタイトスカート。
見た目はOLの格好をしており、長く伸びた茶髪が彼女の動きに合わせ左右に振られる。
そんな彼女の瞳からは大粒の涙が頬を伝っていた。それもそのはず
「本当にやだ。やめて殺さないで!!」
「ククッ。殺さないで、か。女の怯えた表情はたまらねーな」
「つ!?」
目の前の人物は背が高く、黒の雨合羽に黒のマスク、帽子を着用し、そして手には金属バットを持っているのだから。
恐怖心を煽るには充分過ぎる格好をしていた。
そんな異様な有様に女性は逃げようと身じろぐが、それは不可能だ。壁に繋がっている鎖は女性の両腕を頭上で固定し、逃がさないようになっている。
だから女性は命乞いをするしかなかった。
目の前にたちはだかる、殺人鬼に。
「いやだ、死にたくない。死にたくない! お願いぃ、殺さないでぇ」
「ははっ。死にたくないなんて。そうだよなー。昨日はあんなに幸せそうに飲んでたもんな? 三場 明菜(みば あきな)」
「な、なんで私の名前を!?」
「そりゃあーー」
殺人鬼は女性の前にやって来ると、彼女と視線を合わせる為にしゃがむ。
そして、目の端に皺が出来る事から笑ったのだろう。
「依頼されたからだよ。お前の親友にな」
「えっ」
衝撃な事実を知ってしまった女性は、ピタリと動かしていた手を止め、ゆっくりと男の目を見た。
その瞳は空虚な灰色を映し出す。
なんの感情も宿さない、暗い、死んだような目だ。
「ああ、あああ!!」
もう訳が分からなかった。
女性は今起きている状況にも、言われた事実にも。
だから、言葉と涙で感情を出した。
そして女性は、悟る。
もう逃れられないのだと。