第4章 無垢なる天使
今日はとても雨が降っていた。
空から放たれた冷たい雫は激しくアスファルトに叩きつけられると、更に分解された雫があたりに散る。
そんな光景を運転席から見ていた雨宮は退屈そうに信号機を見上げた。
まだ赤信号だ。
雨宮はおもむろに運転席につけられた窓ガラスに顔を向ける。そこに映し出される風景は、窮屈なマンションに囲まれた公園のなか、傘も差さず佇む少女と一匹の白猫がいた。
「ん?」
顔もシルエットもぼやけてよくわからないが、少女はしゃがんで猫と何かをしている。その光景に雨宮の目は見張る。
雨なのに一体何をしてーー
プーーーッ!!!
そんな雨宮の後ろ、青信号なのに進まないことに腹を立てた誰かがクラクションを鳴らした。
「これだから都会は息がつまりそうだよ」
ボソっと呟き発進させたスポーツカーのアウディ。
白に輝く超軽量ボディは雨を弾きながら、目的地とは違う道に逸れた。
『あれ、猫ってマタタビ好きなんじゃないの?』
マンションに囲まれた小さな公園のなか、足から血を流す白猫に向けて真白はマタタビを左右に揺らしてはこちらに来させようと誘惑していた。そんな真白に、白猫は退屈そうに欠伸をしては雨の中じっと滑り台の下で丸まっている。
空模様は更に暗くなり、雨は強さを増す。そのせいで真白の身体は次第に冷たくなっていった。
「こんな所で何をしてるの?」
どれくらいそうしていただろうか。
機械的に左右にマタタビを揺らしていた真白に、ふと背後から聞こえてきた柔らかな声。
雨音に紛れて近づく足音に真白は白猫から視線を後ろに移した。