第3章 悪魔は微笑む
雨宮はゆっくり振り向き、唯人を見た。
無造作に跳ねる黒髪に相変わらずのマスク。
いつもと変わらない容姿だが、雰囲気はいつもとは違う。
「昴は俺を殺すことなんて容易いし…」
「それはこっちの台詞だよ。お前の方が殺人慣れしてるし、俺にとったらお前を殺すリスクがデカ過ぎんだろ」
「ちげーよ! 俺が言ってんのは!」
「あーはいはい。俺はお前を裏切らないから安心しろ。お前にはあの日の"借り"があるからな」
そう言って雨宮は宥めるように微笑む。
しかし、その顔には影が差した。
「借りとか、チッ。本当お前ムカつくわ。俺に笑顔見せんな!」
「お子様の言い分かよ。 まっ、じゃあ愛美ちゃんとお留守番を頼んだよ」
右手に車のキーリングを嵌めてはクルクル回し、雨宮は分厚いドアを押し開く。
すると、明るい日差しが部屋の中一面を照らした。
コンクリートの壁、床にはこべりついて落ちない茶色が付着し、あたりにはチェンソーや、長方形のクーラーボックス、棚に並べられた医療器具などがずらっと並べられている。
そしてーー
「ん、あれ……ここは?」
壁から繋げられた鎖に両腕を捕らわれた愛美が、部屋の奥、中央で目を覚ました。
「やーっと起きやがったか。よお、雌豚」
金属バットを肩に担いだ唯人は、ニタリと舌を出し笑う。
悪魔は今宵も、仔羊相手に微笑む。
「絶望に浸って、散れーー。」