第12章 キツネアザミと矛盾の芽
『日焼け止め……日焼け止めってでも、そんなの人に塗ってもらう文化とか聞いたことない』
「俺以外からはもちろんダメだけどな?」
『り、リアちゃんと予習してきたのよ??中也さんに失礼がないようにって、いっぱい海行くのとか作法とか調べて「おまえほんと可愛いな」ちゃんと聞いて』
ちゃんと聞いてるだろ、と雪小路と白鬼院のいる方を指さしてみせると、素直にそちらを向いて会話に耳を傾ける。
「凜々蝶ちゃん、お姉さんがサンオイル塗ってあげる♡」
「自分で塗る……!」
少なからず冗談ではなかったと知ってピシッと固まったリアに、な?と言えば心の底から反省したようだった。
それでいい、あれは変態にとっては義務教育のようなものなのだから。
「んで、どうする?」
『……へ、変なことじゃないの?中也さんが無理して「俺はおまえが心配だよ」だってリア中也さんに触ってもらうの好きだもん』
まさかのデレに変態共がこぞってこちらを向いてきたので、とっととテントに連れ入って塗ってやることにした。
『中也さん?なんでテント??』
「他の奴らに見せたくないし?」
『あ、腕からなのね??』
はい、と素直に出てきた腕に、薄い膜を張るように日焼け止めを伸ばしていく。
『……え、ぁ、そんな脇と……っか……、あっ……!』
撫でるだけで敏感なのだからそりゃあそうなるか。
まあ予想通りだが。
『ふ、ッぅ……ぁ、手……♡』
指の間まで塗りこもうと、指を絡めたところでまさかのデレを発動されてしまい、ぎゅっと握り返される。
あ〜〜〜まずい、今ここで襲うわけにはいかないというのに。
「はい、次反対な」
『……うん』
うわあああ生やしてねぇけど耳と尻尾がみえる、めちゃくちゃ萎れてる〜〜〜どうしようこれ。
「後でいっぱい繋ごうなあリアちゃん」
『……今さみしいな』
即座に手を繋ぎ直した。
俺には無理だ、可愛すぎる。
「言えるじゃん、いい子」
『…………後であの、中也さんの気が向いたらね?いいなって思ったらね??その……う、海の家?行ってみたいな』
「いくらでも行けるぞリアちゃん」
『屋台のたこ焼きとかき氷食べてみたかったの。楽しみ……「俺が幸せにします」な、なんで急に抱っこ???』
想像以上の薄幸具合につい抱きしめてしまった。
彼女の口から楽しみなんて言葉が聞けるとは。