第11章 珪線石の足音
彼女の家は超高級セレブマンション。
荷物を取り替えに行った際に知らされてはいたが、最上級のサービスにセキュリティが付いた上に、住人には一人に一人ずつ、シークレットサービスがつくらしい。
なるほど、太宰の言っていたボディーガードとやらの話がようやく繋がってきた。
リアのシークレットサービスだった男……それを俺が殺したのだ。
彼女を守るべき存在であるはずのそいつが、裏切り者だった。
リア曰く“よくあること”で“いつものこと”だそうだが、そんなもんが積もりに積もって不眠症になるほどの人間不信になってちゃどうしようもない。
そう、本人の言っていたとおり、本当に自分じゃどうしようもないのだ。
それに兄貴が好きな女を護るためにシークレットサービスに志願したなど、この子からしてみればどれほどの傷になったことか。
『私がいるなんて思ってなかっただろうから。名前違うし分からないでしょ』
「おまえはいい子ちゃんすぎるんだよ、もっと怒っていいんじゃねえの」
『怒れないよ……リアお兄ちゃん大好きだったんだもん』
過去形なあたりが相当な訳ありだ、ポートマフィアに所属している上に出会いが自殺だなんてそりゃあそうなのだろうが、それでもこんな歳の女に言わせちゃならない言葉だと思う。
「んで?会う決心ついたのか?」
『…………行かなきゃダメ?』
「ダメっていうか……昨日やめて帰ってからの方が辛そうだったからなあ」
そんなにどうなるか分からなくて怖い?
聞いた言葉に返されたのは、意外な返事だった。
『なんて返ってくるか手に取るように分かるから……だから、嫌』
「なんて返ってくると思ってるんだよ」
『……覚えてる上に、泣くほど私のこと大事みたいにして……それでも結局私か好きな子か選べなくなっちゃうんだよ。そんなの私が引くしかないじゃんね』
「どういう『いつもそうなんだよ、お兄ちゃん優しいから』それはおまえの方なんじゃ……?」
『振られにいくのっていやじゃない?』
説得力とはこのことか。
彼女の“読み”の精度は俺が一番目にしているはずだし、理解には及ばないとはいえ信頼している部分でもある。
つくづく太宰みたいな女だな。
『ずるいよ……本当ずるい。私がこんなんじゃなかったらもっと一緒にいられたのに』
「一緒にいたら何か問題があるのかよ」
『世間って結構冷たいのよ』