第11章 珪線石の足音
目が覚めると、大好きな香りと心地よい温度に包まれて……目の前に、あなたがいた。
が、困ったことに昨日の記憶が途中から何も無い。
確か首領の指示で爆弾を処理して回って、それから……ああ、Aに捕まったんだっけ。
あの人容赦なく薬を使ってくるから、たまに記憶が飛んじゃうのよね。
それがどうして中也さんと一緒に……それもこんなに抱きしめられて寝ている状況に繋がるのかは分からないけれど。
とりあえず覚ってみれば分かるだろうか……いや、まだ何も話していないこの人にそんな仕打ちは避けるべきだ、なんというかこう、人として。
悶々と今の状況を整理しようとしていたところで、無慈悲に鳴り響くのはお腹の音。
結構大きく長いのが鳴った気がする。
今のもしかして聞かれて……ないよね?
『…………起きてる?』
「……」
『よ、よかったあんなの……いやでも最近中也さんのせいで普通に食べてたから胃が………………いやいやいやダイエットの敵、中也さんに嫌われる』
「誰が誰を嫌うって?」
へ?と声が出てしまってそちらを向くと、やけに真剣な眼差しで見つめられていてびっくりした。
『…………お、起きてた?』
「おはようリアちゃん、朝っぱらからなんでダイエット宣言?」
『なんでもいいでしょそんなの』
「体調は?身体はどうだ、昨日ほど辛くはなさそうだが」
『?私昨日そんなにしんどそうだっ……え、何その顔なんでそんなにげんなりしてるの中原さん』
「名前」
『あっ、中也さん』
慌てて言い直したが、そもそもどうして言い直したのだろう。
別に、私に名前を呼ばれたってあなたが嫌な気持ちになる可能性があるだけなのに。
「覚えてねえの?」
『……えっと、爆弾処理して……任務に行った?』
「分からないならそう言えっての。その後一緒にデートした記憶は『で、でぇとってあの……??なんで中也さん私なんかとデェトしてくれ…………し、したの!?』ああうん、美味い甘味処があって連れて行って食わせてたんだ。つーか記憶無くすレベルでしんどいんならほんと休め、マジで、おまえ無茶しすぎ本当」
説教をされているような感覚なのに、撫でてくる。
『……なんで撫でてるんですか』
「あ?好きだっつってたろ」
『言ってないそんなこと』
「あっそ、まあいいわ。俺がしたいからしてるんだ……嫌じゃないならいいだろ」