第11章 珪線石の足音
名残惜しいのをキスして手を離し、彼女に服を着せようと振り返ったところで……視線を感じて、向き直った。
「……着替え、取ってくるだけだよ」
『…………うん』
「あ〜……リア?離れてほしくないなら、言っていいから。言わなきゃダメだ、そういうのは」
あまりにも、捨てられた子犬……というよりは狐か。
そんな目をして不安で不安で仕方なさそうな顔をされてしまって、抱きしめ直す。
「一緒にいこうか、汗も拭いてやるからなぁ」
『……どっか行ってもいいよ』
「行かねぇよ、おまえが寂しくなるんだろうが」
『そ、う』
拍子抜けしたような声を出してから、頬に触れられてそちらを向く。
するとあちらから顔を寄せてきて口付けられ……そのまま、寝息を立てられてしまった。
クソ、今ので完全にやられた、どうすんだよこれ……起きるなよ?
一通り綺麗にしてやってから完璧に寝間着を着せて寝かし、決して離れられないので仕方なく……本当に仕方なく、そのまま自力で処理させていただく。
ああ、まずい、非常にまずい。
朝起きたらこいつをオカズにしたことがバレそうだ、頭もいいし洞察力も桁外れだし大いに有り得る……が、問題はそれよりも俺のあまりの余裕のなさだろう。
学生の小娘相手にこのザマかよ、笑えねぇ。
手くらい洗わせてくれよ、と動きかけたところでぴくりと反応されて、大人しくした。
ああダメだ、どう足掻いても起こしちまう。
「……リア、悪い。ちょっと手洗いにだけ行かせてくれる?」
『…………おはよう?』
「ああおはよう。トイレに行かせていただいてもいいですかお嬢さん」
『あ……うん、行ってらっしゃい』
で、できねぇ、できねぇよそんな顔してるリアを放置だなんて。
「おまえ……数秒で戻るからな!?すぐに戻るからな!!?」
『そんなに急がなくても』
「すぐにだ、約束する」
そう?と全く期待されていなさそうな愛想笑いを返されて即座に手洗いに行き、戻ってくると耳も尻尾も消えていた。
『あ、ほんとに秒で戻ってきた』
「寂しがり屋のお姫様が待って……た、からな……?」
無意識か。
あちらから手で手繰り寄せられてベッドに引っ張られ、隣に戻ると腕を回された。
「…………おまえ事後に素直になるタチか」
『なにが?』
「いや、なんでもない。水飲める?」
『くれるの……?』