第11章 珪線石の足音
どうして助けてくれたんですか。
一番古いものと思わしきそれに書かれていた文字に、胸がしめつけられる。
ベッドで寝かしつつ一方的な手紙……というよりは日記に近いそれを順番に読んでいくのだが、一通目から中々に彼女の中に困惑があったようで、ずっと俺に聞けなかったそれらが綴られていて驚かされた。
“死にたかったから自殺しようと思ったのに”
“どうせ嫌いになるなら関わらないでください”
“私に関わってもあなたが危険な目に遭うだけです”
警告のような言い回しをしているが、その実文字にあたたかみを感じてしまって、今よりもっと幼い考えだった頃のリアを思い出して笑ってしまった。
“まさかあなたが助けてくれて、傍に置いてくれるなんて思わなかった”
“私が必要なら、それに精一杯報えるようにします”
「ぷっ、仕事かよ。真面目すぎんだろ」
“誰もいらないと思ってた。ほんとはちょっとだけ、嬉しかった。”
……そうか、あんな目をしていたおまえがそんな風に思ってくれていたとはな。
“先に挨拶が出来なくてごめんなさい。中原さんにどう接していいのか分からなくて、本当は中原さんがマンションを出たあたりからずっと後をつけてました”
と、まさかの二通目から既にストーキングの暴露である。
さてどうしよう、雲行きが怪しくなってきたが。
“昨日はありがとうって言いたかったのに、言えなくてごめんなさい”
また、謝罪。
“お仕事サボらないから傍に置いててほしいです、お願いします”
“勝手にいなくなってごめんなさい”
“何も聞かないでいてくれて嬉しかった”
“捨てないでいてくれて嬉しかった”
“痛いの手当してくれて嬉しかった。優しくしてもらえて幸せだった”
“いい子にするから追い出さないで”
インクの滲みの理由は容易に想像がつくが、何かあったのかと記憶を遡ると、恐らく出勤初日のことだろう。
何かとんでもねえもん抱え込んでやがるってことだけは分かっていたが、まさかそこまで思いつめていたとは。
“今日も怒らないでいてくれてありがとう”
“口をきいてもらえて嬉しかった”
“お仕事褒めてもらえて嬉しかった、もっと頑張る”
“早く他の人達みたいに中原さんと親しくなりたいな”
セクハラ幹部だなんだと言っていた口からは想像もつかない素直さである、俺の負けだこんなもの。