第11章 珪線石の足音
まさかの寸胴で作ることになってしまったカレーをペロリと平らげてしまうお嬢さんは、美味しかったとはしゃいでいらっしゃる。
が、俺にバレていないとでも思っているのだろうか。
「よし、じゃあ次は肉を『ごちそうさまでした』おい待て、まだ食ってねぇだろ」
『?あんなにいっぱい食べさせてもらいましたけど』
たしかにあんなにいっぱい食べさせましたけども。
「まだ余裕あるだろ?」
『えっと』
「腹いっぱいじゃないよなあ?」
『なんで分かったの?』
「満腹になったら人間はそんなに可愛らしく笑えねぇもんなんだよ、遠慮したら一週間延ばすからな?もっと食べる?」
『……食べ、る』
ぐぅ、と可愛らしい音が聞こえて、彼女の顔が赤くなる。
「もしかして飯食って食欲湧いてきた?」
『これは違くて……な、何か聞こえた??』
消化している音というよりは、空腹を訴える音だったように思う。
もしかして、腹減りすぎてそれどころじゃない領域まで達してたとか……そういや腹いっぱい食べねえようにしてたように見えなくもないし。
こんなに食ってるの、拠点じゃ見ねえもんな。
「リアちゃん、お腹すいたのか?」
『…………今食べたばっかだよ?引かないの?』
「なんで引くんだよ、腹減ったんなら食わせてやるに決まってんだろ。いい子だから隠すな、そういうの」
『なんで、怒らないの』
「おまえが腹空かせてんのになんで怒らなくちゃならないんだよ、生理現象だろそんなもん」
『中也さんはおかわりとかさせてくれるけど、そんなのしたらリア折檻されてたのに』
「おまえマジで腹膨れるまで食わすわ、覚悟しとけ」
目が潤んだような気がするが、それどころではない事態に見舞われる。
顔を近付けてきたかと思いきや、彼女は俺の頬に触れて……それから髪をかき分け、あろうことか額に口付けてきてしまったのだ。
……いやおまえ、キスされる時のやつとか言って昼間あんだけ恥ずかしがっておいて。
「やり返される覚悟ある?」
『……そんなことまでしてくれる、の…………ぁ、ま、待ってくださ……退かさない、で』
懇願されて、長く伸ばされた前髪をどける手を止めた。
そうか、何か見られたくないから、伸ばしてたんだな。
「じゃあこっちにいっぱいするけど」
『ひゃ、……う、うん?』
「俺はおまえが可愛すぎて心配だよ」