第11章 珪線石の足音
「中也くん、翻訳して」
「……執務室内で、こいつが入ってきてから無味無臭の毒を撒かれていたようです。白縹『幹部』……リア、ちゃんが……いち早く気付いて充満しきる前に、膜のようなバリアが張られていてですね」
リアちゃんと呼ばれてご機嫌ならしく、嬉しそうににこにこしていらっしゃる。
そんなに嫌か苗字呼びは。
「えっ、中也君今なんて?バリアって言った??」
「はい、執務室を二分するようなバリアが「リアちゃん???君この二ヶ月でどれだけ痩せたか言ってみなさい?」首領……?」
『リア別に痩せてません』
大嘘ついたなこいつ、嘘つく時の癖出てんぞ。
「ただでさえ中也君が遠征行ってから食欲不振拗らせてた上に睡眠とってなかったでしょ君」
『そんなことありません』
「体温測って。平熱無いよね?」
『あります』
「中也君、やりなさい」
はっ、と体温計を取り出してきて無理矢理リアの身体をもたれかけさせ、嫌々と抵抗されるのをものともせずに測ると……三十二度台。
いや、なんだその数値見た事ねぇぞ。
「首領!?三十二度って!!?」
「三十度あるだけ前よりマシだね、とりあえずリアちゃんは一週間任務禁止!」
『や、やだ』
「可愛く言ってもダメなものはダメ!中也くんが危なかったからって無茶しすぎだからそれ」
『だって中也さんが死んじゃうのやだもん……』
素直になってとんでもなく可愛らしいことになっていらっしゃるのだが、本人は意地を張っているつもりなのだろう。
『中也さんのためならリアが死ぬくらい平気で「リアちゃん」本当よ?そんなに光栄なことないもの』
本気で言ってそうなのが引っかかるが、何はともあれ教育が必要だなこの餓鬼には。
「俺のために死なれても嬉しくねぇけど」
『中也さん喜ばせたくてしてるわけじゃないもん』
「んな事されたら俺おまえのこと嫌いになるけど?いいのか?」
『…………』
ボロっ、と大粒の涙がこぼれ落ちてきて首領と共にギョッとする。
「り、りりりりリアちゃん???何、なんで泣いて『きら……ック、…………きら、ぃ……きらぃ』言ってねえよ!!?もしそんなことしたらだからな!?嫌ってねえから!な!!?」
「こらこら、刃物を持つのをやめなさいね」
慌てて二人がかりでリアが手にする凶器という凶器を奪って遠くに投げる。
やっべぇ、地雷踏んだ。