第11章 珪線石の足音
正直に言うと、参った。
俺が物足りないだ可愛がりたいだ構い足りないだ思っていた以上に、腕の中で声も上げずに泣きじゃくっているそいつは寂しかったらしい。
それも本人に自覚はなく、押し殺して押し殺して、見て見ぬふりをして大丈夫だなどと宣うのに慣れてしまうくらいには、彼女は自分を抑えて生きてきたようで。
「ほーら、寂しかったリアちゃん。目の前に大好きな俺がいますよ」
『……?』
「抱きつかなくていいの?」
言った途端に、何かの糸が切れたようにして体を預けるように抱きついてくる。
「いい子。できるじゃねえか」
なんてところで、ノック音。
びく、と肩を揺らしたそいつは俺の反応を見ているようで、何かを懇願するような眼差しに思わず笑ってしまう。
「このままでもいいか?」
自分の要望が通るとは思っていなかったのだろう。
予想外だとでもいうような顔をして、リアちゃん?と聞くとこくこく頷いて更に密着して抱きつかれる。
おー、甘えたんなってんなぁ。
そのままそうしてろよ。
パネルを操作してロックを解除し、中に相手……中級構成員の部下が入ってくると、ぎょっとしたような目を向けられた。
まあツッコミどころしかないわな、そりゃ。
「え、ええと……白縹準幹部にご報告を」
「報告?何の報告だ」
「諜報部隊からなのですが、何やら昨日出された作戦のままの乗り込みでは危険な____」
殺気を出してしまったのに怖気付かせてしまったらしい、そいつは俺にビビって短い悲鳴をあげる。
「ああ、悪い。その諜報部隊……作戦に文句がある奴は誰だ?」
「それが第八班長の代山様が」
「何を根拠に」
「敵組織の拠点と武力を調査したところ、人数と武器があまりにも釣り合っていないとのご判断だそうで」
判断ねえ?
諜報部……“中級”の諜報部の、班長がか。
「自分が任務に同行する度に同じことを言ってるだろ、そいつは」
「しかしこの意見には同意が多く____」
『毒くさい』
ぽつりと聞こえた言葉に、そいつが“黒”であると断定し、異能で床に叩きつけ、骨を折る。
「ガッ、……ぐっ!!?」
見ると、いつからそうだったのか。
俺達とそいつとの間に、執務室の壁・床・天井まで覆うような薄い薄い膜のようなものが張られていて。
『リアがいるのに、この人に毒なんか吸わせるわけないでしょ?』