第11章 珪線石の足音
起こしてもらったところでいつの間にか手を引かれていることに気が付いて、立ち上がろうとさせてもらったところで咄嗟にそれをパッと離してしまう。
体に染み付いてる癖のようなものだ、人の手をできるだけ握らないようにと…そう、誓って生きてきたから。
嫌な思いをするのは自分だと気が付いたから。
「…まだやめとく?」
彼は手を繋ぎたい…というよりは、私が繋ぎたがっていることを見透かしているのだろう。
誰か好きな人一人くらい、そういう触れ合いをしたいと心の奥底で思ってきたのを見抜いているのだ。
隠すのは今更無意味だし、妙に察しがいいこの人相手にひねくれたところで好きの気持ちで包み込んで懐柔してくるくらいだから。
『えと、…その……』
「おいで、リア。いいよ」
呼ばれたせいだろうか…優しく言われたせいだろうか。
勇気を振り絞って両手で彼の大きな手をとってみたところで、嬉しそうに握り返してくれたのが、嬉しかった。
繋いでいいよって、言ってくれるんだ。
……中也さんの手だ。
私をいつも撫でて抱きしめて、護ってくれる大好きな手だ。
頬擦りしても怒られないどころか、もう片方の手で撫でてくれる。
「辛くない?」
『……うん』
「ならいいや、朝食作るから一緒に行こう」
『う、うん』
馬鹿の一つ覚えで彼の手に掴まったままついていく。
調理中にも手が空いた時に撫でてかまってくれるのが嬉しかった。
「もう立ってても平気?」
『平気』
「飯は?普通のでももう大丈夫そう?」
『うん』
「食欲ある?」
『…多分』
じゃあいっぱい作らないとな、なんて分かっていたように笑うその人は心の底から嬉しそうだ。
この人がこんなに喜んでくれるなら、いいのかな。
…いいんだよね?
心の内を読みたくて読みたくてうずうずするのは、きっと期待してるからだ。
『あの、中也さん』
「ん〜?どうした?」
『ど…どう、思った…?』
「……えっと、どれがだ?」
『手…あの「ちょっと慣れてきてくれたかなって、達成感?…ぎこちなさすぎてあんまり可愛いから、いくらでもしたくなっちまうよ」!そ、そう…そっか』
一度こちらを向いておでこにキスして撫でられたところでこちらが耐えきれなくなり、彼の腰元に抱きついて甘えついた。
勝てるわけないや、こんなの。
……手、いっぱい繋いでいいんだ。