第11章 珪線石の足音
誰かの腕の中で眠るというのは、普段寝付けない私にとっては最近ありふれている光景ではあるけれど、憧れてもいたものである。
意識の無い中でもまるで宝物のように大事にされてるような、そんな気分にさせてもらえる。
私が大切だよと、言ってもらえているような気がする。
目が覚めるまで私の傍にいて、目が覚めてからも一緒にいて。
何百年、何千年と隣にいてくれる人。
多分、そういう人が私だって欲しかった…欲しかったんだと、思う。
忘れていた感覚を強引に説得されるような形で私に思い出させた彼のにおいに包まれたそこで、意識を覚醒させれば、不思議と寒気は消えていた。
…身体、随分楽だ。
怪我の治癒とか、しない方がいいのかな…でもしないと中也さんが心配するし。
私も痛いのは好きじゃないし。
「目さめた?」
『!…ここどこ?』
「俺ん家。服勝手に着替えさせたけど許してくれよ」
『そういうの好き』
「おう、ありがとう」
本当の狐や子供のように撫でてくれるのに気が抜ける。
気付けば勝手に変化してしまうし、この人に可愛がってもらえるのなら自分が何になったって構わないような気さえする。
…こうされるのが多分、好きなんだと思う。
「御狐神は妖館に送ってったけど、よかったか?」
『ぁ…ご、ごめんなさい。私が無理言って来てもらったのに』
「ごめんなさい禁止だ、あいつが好きでお前のところにいたんだから」
『…そ、うかな』
「そうだよ、本人も嬉しそうにしてただろ?あと、夜中に蜻蛉がこっち着いたから向かいの部屋に泊めてる。多分まだ寝てるだろうから後でになるだろうけど、また来るってよ」
カゲ様、来てくれたの?
離れてからわざわざお見舞いに来るなんて、そんなことしない人だと思ってたのに。
「何考えてんのか顔に書いてあるけど、お前がしんどい時あいつに知らせてなかったんじゃねえの?」
『うん?』
「分かってたら絶対来てたと思うぞ、昨日だって北海道から飛んできたらしいからな」
え、と思わず声を漏らしてしまったところで、体温計を咥えさせられ、検温される。
昨日よりかなり熱も下がっているし、あともう一息で全快といったところだろうか。
一日でこんなに良くなったの、いつぶりだろ。
「おお、かなり下がったな!よかったよかった」
私が元気になって、喜んでくれる人がいるって…いいなあ。