第11章 珪線石の足音
『は…な、何それ、幻想も甚だしい』
「アヤメ様から全て聞いております、シラを切らないでください」
『だとしたら何、それが何だって言うの』
「僕は凜々蝶様をお慕いするより以前から、あなたの事を存じ上げた上で敬愛し、陰ながら寵愛させていただいていたと言っているのですよ」
御狐神に抱き上げられるのを嫌がる素振りを見せるリアだが、撫でられると共に大人しくなって、抵抗するのをやめる。
なるほどなぁ、以前から可愛がり方が逸脱しているとは思ってはいたが…
「御狐神、手前リアのこと好きだったろ」
「何のことでしょうか」
『……えっ、なんで嘘つい…え?』
「さてはこいつが従妹だった上に自分のこと兄貴みたいにして甘えてくるもんだから、そっちに絆されちまった上そもそも恋愛対象として可愛がるつもりが無かった…とかそんなところじゃねえのか、その感じ」
「…昔の話です」
リアに触れている時点で諦めたのか、あっさり認めたそいつに一番驚いているのはリア本人であった。
おい、何ちょっと顔赤くしてんだ手前。
『中也さんが、デタラメ言って…』
「お前なぁ、こいつが白鬼院以外にストーキングする相手お前しかいないの知っててそれ言えんのか?」
「自分の元主に求婚している相手にそんな風に接するわけにもいきませんでしたしね」
『…………じゃあ何、そうくんリアのこと大好きなの?』
あんだけ愛でられててここまで自覚がないのも大概な気がするが、まあ、御狐神も苦労したところなのだろうこれは。
「知らなかったんですか?」
『…うん』
「じゃあ、これからちゃんと知っててくれるって約束してください。僕は中原さんとのことも本当は認めたくなんてなかったんですからね」
「おいこらちょっとまてよお義兄様」
『どうでもいいのかと思ってた』
「リアが気にされたかったとは思わず、黙ってしまってましたから。よろしければ、これからは好きに可愛がらせてもらっても?」
具体的にどうするのかと問うたリアに、失礼します、と前髪を掻き分けて額にキスし、当のリア本人はといえば目をまん丸にしてぱちくりさせて、目の前の兄貴にメロメロになっていらっしゃる。
そして御狐神の方は俺に向けてにやりと笑い、腹黒さをチラつかせながらリア様を抱っこしてご満悦。
「喧嘩売ってんじゃねぇぞ手前!?返せ!!」
「お断りします♪」