第11章 珪線石の足音
「おやおや、皆様お揃いで…?リア、どうしたんです?中原さんのところにいなくていいんですか」
『あの人恥ずかしいからおにいちゃんとこいる』
「そうですかそうですか♪消化にいいものを沢山用意していますからね、一緒に食べましょう」
『!…おにいちゃんが作ったの?』
「え、ええと…まあ、はい。誰かに振る舞うのは初めてですから、お口に合うかは分かりませんが」
『凜々蝶ちゃんじゃないのに、そんなの食べさせてもらっていいの』
弱気な声が、いかにあの子の胸中でコンプレックスとなっているのかを教えてくれたような気がした。
考えてみればそうだ、御狐神のみにとどまらず、本人の意向でないとはいえ蜻蛉の許嫁、更には反ノ塚とも家が近くて親しくて…何度繰り返してきても、変わらなかったのだろう。
それを本人に言ったところで白鬼院が悪いわけでもなんでもない、だから誰にも言わなかった。
これは、そんな彼女の本音が垣間見えた一言と言えるだろう。
「……当然です、貴女は僕の妹ですから。大切な子なんですよ、自覚してください」
『それ、って…どのくらい大切なの。こんな、ちょっと前まで見ず知らずだった子供相手に……私のことなんか知らなかったんでしょ…?』
「それでもリアが僕をお兄ちゃんと慕ってくれてるのは知っていますから」
『い、一番じゃないくせに』
「誰がそんなこと言ったんです、でたらめ言う人がいるなら僕の元まで連れてきなさい」
正直なところ、意外だった。
てっきり御狐神の感覚として、白鬼院が最優先…その次点にリアだと、本人がここまで思い詰めている様子であったし、日頃から互いに遠慮し合っているのもあって分からなかったのだが。
御狐神がここまではっきり言い切ることの方が珍しいし、本人が少し怒っているように感じられるのも初めてな気がする。
「なんでむくれてるんですか、こっちを向いて話しなさい」
『わ、たしのことなんか知らなくって…た、他人同然だったくせに』
「他人なわけがないでしょう…僕を実家から救い出してくれたのは貴女でしょう?」
『……え、?』
「知ってるんですよ、無茶してこっそり外に出て青鬼院家に繋がりをつくってくれたのも、御狐神家に潜入して僕の担当の給仕をいいように誘導してくれてたことも」
あれ修羅場ですか?と聞いてくる篠田に、ただの兄妹喧嘩だと笑っておいた。