第11章 珪線石の足音
『時間取っちゃってごめんなさぃ』
「…どうして謝るんです?僕怒ってないでしょう?」
『おにいちゃん何にも怒んないから…ごめんなさい。……凜々蝶ちゃんのとこにいれる時間取っちゃった』
「凜々蝶様も分かってくださってます、大丈夫です。熱を出した時くらいちゃんと言ってください」
『だってそうくん一番大事にしてる時間だから、』
言ったそばから、御狐神の方がいたたまれなくなったらしく、彼女をめいいっぱい抱きしめていた。
そりゃあそうだ、そこに気遣われて体調不良でさえ伝えられなかっただなんて、兄貴としてはくるもんがあるだろう。
「いいんですよ、貴女は僕の妹なんです。特別な子なんですから」
『………そぉ?』
「はい、なんでもわがまま言っていいんです」
『…じゃあ、そうくん風邪ひいてなくてもリアと遊んでくれるの?』
「もちろんですよ」
『あ、そぅ……そうなんだ』
距離感の掴み方をいまいち測りかねている彼女は、相手側からいいよと言われなければどこまでのことを望んでいいのか分からないらしい。
俺相手でさえ未だにそうなんだ、御狐神と親戚だと知ったのだって比較的最近だと…御狐神側が知ったのがここ何年かのことだと言っているのだし、既に大切な想い人のいる相手に遠慮してしまうのも、まあおかしくはないことだろう。
自分の兄貴なんだから、もっと困らせてやればいいんだよ。
『じゃあもっとお喋りしてもいい?』
「いくらでもどうぞ」
『抱っこもしていいの?』
「むしろ僕からお願いします」
『ちゅうは?』
「…凜々蝶様にお話してからお願いしてもよろしいですか?」
『……うん』
キスでの愛情表現が身についてるこの子にとっては、それは少し寂しい突き放され方だったらしい。
納得はしているようだけれど、耳が垂れているし元気はない。
本当にはしゃいでる時なんか反ノ塚相手でもキスしてやがるしなぁ…キス魔っちゃあキス魔なんだが、それほど鬱憤を日々募らせてきた周りの環境のせいが殆どだろうし、誰も何も咎められないというかなんというか。
ちらりとこちらを覗き見たような彼女に、助けを求められたような気がして両手を広げてみる。
すると縋り付くようにやってきてから、膝の上で眠りについてしまった。
頑張ってわがまま言ったんだもんなぁ、成長したもんだよ。
「兄妹揃って不器用な奴らだな」