第11章 珪線石の足音
「いいですかリア?中原さんは今お仕事をなさっていますからね」
『おにいちゃんは何中??』
「お兄ちゃんはリアに構い中です♪」
「何あれ代わりてぇ」
御狐神の膝に乗り、大人しく俺の方を見ながら奴に背を預けて休んでらっしゃる愛娘様は、ご機嫌な様子で尻尾をふりふりしていらっしゃる。
あの子の言う遊びとは構っているだけでも成立するほど基準の優しいものなのだけれど、それはそれで見ているこちらが悲しくなってくるというかあまりにも健気すぎるというか。
だからとっとと本日分の業務を終わらせたいところなのだけれども。
「…リアちゃん、これの資料のファイルどこまとめてくれてる?」
『!それはねぇ、こっち!開いたら中に整理してあるよ♡』
「部下の方が優秀なんだよこういう仕事…」
『ショトカ作ってるからこれ使って中也さん』
「…いつもありがとうなあ、」
ぽんぽん、と撫でたところで、何故か桜の花が舞う。
それに一瞬で着物にまで変化して完全変化まで完了だ。
「…?リアちゃん?」
『え…?あ、はぃ、どしたの中也さん』
「いや、ビックリしてるからどうしたのかと」
面白いほど目をまん丸にさせながら、ポンッと花を咲かせては落とし、咲かせては落としを繰り返す。
無意識かこれ。
『……なっ、なんでもないからね!』
御狐神に隠れるように振り向いてしまったけれど、頭隠して尻隠さず…しっぽが十本とも御目見である。
「リア、中原さんが戸惑われてしまいますよ?」
『おにぃちゃ、…ち、中也さんが褒め…褒めて、あの、リアのことほめた…っ』
俺は毎日褒めてるつもりなんですがお嬢さん。
「良かったじゃないですか?リアが嬉しがっているときっと中原さんも喜んでくれますよ」
『頭よしよしって、』
「いつもされてませんでしたっけ…?」
『さっきの顔見てなかったんでしょ!?中也さん笑ってたんだから!!』
俺に変わってリアを撫でながらなだめている様子の御狐神は、狐の好むことを心得ているのか撫で方を変える。
「そうですか、リアに向けられる顔は特別なものなんでしょうねきっと」
『にゃぅ…♡』
一瞬で甘い声になって横たわり、お腹を見せるよう仰向けになるとそこをぽんぽんと撫でられ始めてご満悦。
なんだこの生き物、人懐っこすぎんだろ。
「ふふっ、可愛いですよ」
『…おにいちゃん、』