第11章 珪線石の足音
ひょぃ、と尻尾を自分の後方に振って様子をうかがってみる。
…無意識だったもん、そんな風に言われたって仕方ないじゃん。
知らないうちに勝手に中也さんの方にいっちゃってたんだもん。
「ははっ、可愛い奴め。俺別に怒ってねえのに?…そんな目で見んなよ、よしよし、可愛いなぁお前は」
『…!?あっ、いやちがう、し、尻尾さわってもいい!!』
「ん〜?また俺に気遣ってんの?」
『だって、だって…』
「……いいんだよ。俺の一番はリアなんだし、お前は俺のご主人様だぜ?もっとわがままになっていいんだから」
ベッドに上がってきた彼は私を抱きしめながら、言い聞かせる。
そんなこと言われたって、次の瞬間にこの人の嫌がることを私がしてしまったらどうなるか分からない話じゃない。
中也さんが私に愛想尽かしてどっか行っちゃうかもしれないのに。
『ち、中也さんがどっか行っちゃぅ』
「行かねぇよ、約束してんだろ〜?目擦んな、腫れっから」
ありもしない不安に押しつぶされそうになるのもいつものこと…いや、少し違うか。
ちょっとでも期待している証拠なのかもしれない。
諦めている間の方がよっぽど楽だった、最初から期待しない方がよっぽど。
…それが幸せだったとは、言えないけれど。
「何か食う?何でも作ってやるよ」
『…………おじや』
「あ〜…あれ好きだったの?」
『風邪ひいたら中也さん作ってくれるやつ』
「えっ、待ってそんな好きだった???」
『治さんも作ってくれた』
なるほどな、と言外に納得され、よしよしと撫でられる。
身体のだるさを自覚してきたらあまり話す気力もわかなくなってくるので、かわりに彼に身体を預けて触れることにするけれど。
__マジで体調悪そうだな、なんで朝から気付いてやれなかったんだか…__
「すぐに良くなるからな?安心しろよ」
『…え、あ…そう?』
「ずっと傍についててやるから」
『……うん』
そっと手を伸ばしてみたところで、彼のそれを握るのを躊躇った。
今繋いだら変に思われるかな。
でも、熱出してるとこの人いつにも増して優しいんだよな…
血迷ったことをしでかしても、熱のせいにしてくれる。
「…後ちょっとで届くぞ、繋がねえの」
『……とどかないの』
「しょうがねえなぁ」
なんて言いながら私の手を取ってくれる彼は、どこか嬉しそうだった。