第10章 アザレアのひととき
一緒にいてくれるとどこかで期待していたのかもしれない。
いや、それがきっと私の望みだったのだろう。
家に帰ったら彼がいて、外に出ても中也さんが面倒を見てくれて。
急いで帰ってそのまま部屋に閉じこもって、気付けばまた出勤日になっていて。
「…!?おい、お前どうした…えらいやつれてんぞ、何したんだよ」
『……あ、低身長幹部』
「…………何があった?」
『別に何も〜?私のことより自分の背の心配したらどうですか……って、ああごめんなさい。貴方もう成長期終わったんですっけ』
「喧嘩売ってんのか!!?」
あ、うん、このくらいの方がいい。
これなら多分大丈夫。
これなら…いや、どう足掻いてもあの人が私の元に戻ってきてくれることはもうないのだろう。
私がこの人と一緒にいたがる限り、きっと無理な話なのだ。
……適度に離れてれば、お話くらいしても大丈夫かな。
街で姿を探すくらいなら、していいかな。
二人ともは、ダメなのかな。
『…いいじゃん、みんな二人いるくせに』
「あ…?…何言ってんだ?」
『サボってる暇あったら早く仕事くれません?』
「えらい反抗期じゃねえか、そんなに仕事がほしいならこれを『はいは〜い、やっときゃいいんでしょ〜』…お前そんな態度とる奴だったか?こっち向いてちゃんと話しろよ」
『…私が欲しいもの言ったら、貴方は私にそれをくれます?』
「なんだよ、言ってみ」
『中也さん、同棲しよーよ♡』
「ふざけてんなら他当たれ!!!」
『きゃ〜♪』
怒った怒った、と煽りながらデスクに逃げるも、内心どこかでホッとした。
良かった、距離の掴み方を間違えてなくて。
本気だった、とか言ったら多分、気持ち悪がられる。
下手なことは言うべきじゃない、ちゃんと覚えた。
「…お前一人暮らし?」
『女の子のプライベートにそんなに興味あるんです?』
「はぐらかすな、ちゃんと答えるかこっち向くかしろ」
『私が一人暮らしだったらなんです?一緒に住んでくれるの?』
「……女の子が軽率に一人暮らしなのを言いふらすんじゃねえぞ、俺だからいいけどな…危ないことになったらいけねえだろ?分かったか?」
『…そんな話してなかったでしょ?』
「心配だからな」
『中原さん一人暮らし?』
おう、と返されるのに、笑顔で言った。
『…じゃあリアのこと泊めてみない?』
