第10章 アザレアのひととき
『ぷぅ、』
「何の鳴き声だそれ」
『んん〜…中也さぁん…………ずっと一緒に…は、いられないねぇ…やだなぁ…』
酔っ払いきったそいつを抱き上げて部屋に連れ帰るべく、一足先に歓迎会を抜けさせてもらってきたはいいが。
マジで酔ってんなこの様子じゃ、どれにアルコールなんざ入ってやがったんだ?
「いたらいいじゃねえか、出来ねぇの?」
『中也さんはリアと違って短命だからねぇ』
「先祖返りじゃねえからって話?」
『そうよぉ…?中也さんは来世もその次も、これから先リアのことずぅ〜っと一人にするの。ひどい人』
「んじゃ、俺のこと先祖返りにしちまえばいいんじゃねえの」
『……』
そっとベッドに寝かせてから以前のリベンジをしてみるものの、酔っていたとてそればっかりは二つ返事で了承してくれないらしい。
「それかとっととお前の血縁者皆殺しにしちまうとか…可愛いリアのためならそれくらい、俺が全部やっちまえるけど」
『あは…、ほんとにぐらっときちゃった。口説いてます?』
「ん、口説いてる」
『…………落とされちゃったら考えてあげます』
まだそれほどまでにはならないよう、線引きをどこかでされていたらしい。
それがぐらついた原因は、何となくわかる。
「俺に一回忘れられちまって、そんな堪えちまったんですか?姫さんは」
じんわりと目元に滲むそれが何よりの肯定だろう。
ああもう、可愛いな…
「全然ダメじゃん、最初なんか俺のこと好きになるとかありえないとか言ってたくせに」
『だって…中也さん全然こっち見てくんなかったから』
「……ずっと見てたら見てたで、よけい好きになっちまったの?」
ふりふりと、尾鰭で小さくアピールされた。
「ちょろすぎねえ?」
『はじめて、だったから…しかたないじゃないですか』
「?…何がはじめて??」
『ちゃんと、あの…お付き合いするの』
「そりゃまあ、その歳でそんなとっかえひっかえしてねえだろうけど」
『じゃな、くて…』
かああ、と頬を染めゆく様子に、ひとつの可能性が頭の中を過ぎる。
「…えっ、リアちゃん?マジで言ってるかそれ」
『ん』
「いや、流石に前世の記憶全部あってそれは……一人も?」
『男の人嫌いだし…カゲ様いつもあんなだし』
つまり、正真正銘俺が初恋の相手だということですか。
「今日鱗洗ってやろうなぁ…♪」
