第10章 アザレアのひととき
「はぁいリアちゃん、太宰さんだよ♡」
『軟派男』
「第一声がそれかい酔っ払いちゃん」
連絡して向こうを呼び寄せることにしたはいいが、こうも妖館に馴染んでいるとは。
『呼ばなきゃリアのことなんか忘れてるくせに』
「え?君のことなら常時ストーキングしてるけれど」
『嘘つき』
「嘘じゃないって。御狐神くんと共謀してるもの私」
『じゃあなんで前みたいにデレデレしに来ないの』
「……?デレデレしててほしかったの?」
『嫌いになっちゃったのかと思って』
え゛、と気色の悪い笑顔が固まる青鯖野郎。
珍しく動揺してんなこいつ。
『そんなに探偵社の新人達がかわいい?』
「…ええっと、リアちゃん??…あのねえ、うん、そこは確かに可愛がってるけど……や、優しくしてほしかったの???」
『リアのこと拾ったくせに』
「いやいや、君は私のこと怒っていい子なはずなんだけど」
『リア以外に子供作らないでくれる?』
「……う、ん?…分かった、約束しておこっか」
こいつらの関係性はいまいちよく理解していない部分があるが、どうにもリアからしてみれば自分の方を向いておいてほしい人間の一人ではあるらしい。
というか、文字通り最初にこいつに手を差し伸べた人間なのだろうし、癪ではあるけれど俺より先にリアを保護した相手である。
本人が納得しているのだから今更関係性に口を出すつもりは毛頭無かったのだが。
『…その指切りしたら本当に信用するわよ』
「していいよ?何がそんなに不安なの、私がリアちゃん見捨てるわけないでしょうが」
『会いに来てくれないから』
「君ほんと酔ってるねえ…?私が来なくて不安だったのかい」
『来なかったら行っちゃいけないのかなって思うじゃない』
少し面食らったような顔を見せたそいつは、膝をついて、改めてリアの方に小指を出し、自発的に彼女のそれを絡めにいった。
「来ていいよ。いつでも来なさい、私は君の保護者をやめたつもりはないからね」
『…………リアよりちっちゃい女の子拾ったくせに』
「拾ってないよ。それは私じゃなくて敦くんだ」
『太宰さんはリアの何なの』
「…イケメンのお兄さん??」
『そう君いるから』
「ええ〜?じゃあなんだろうねえ…ママとか?」
ぱぁ、と目が輝いたような。
母親…母親か。
彼女の尻尾がゆらゆらと振れていた。
