第9章 蛍石の道標
____
俺に降かかる苦労はといえば、以前までは全てが太宰のせいだった。
しかし、その太宰から解放されて平和な生活を送っていた俺の部下となった女、白縹 リア。
この存在によっておれの平穏は崩されることとなったのだ。
「…中也君、そんな顔しない」
「一体どのような顔でしょうか」
「リアちゃんのこと考えてる顔してるよ」
「あいつ…また、途中退社というか、行方不明というか…ッ」
あの女が入って三日目。
一日目は流石に俺のところで眠ってしまったがために様子も見たし、大人しくさせていた。
が、それからというもの、姿を消したかと思いきやもはやその姿は拠点の中で見られなくなる始末。
「理由も無しにいなくなるような子じゃないけれどねぇ…何も聞いてない?」
「出社する度聞こうにもやれセクハラだのやれパワハラだのの繰り返しで話になりません」
「でも仕事はこなしてるんでしょ?」
「指摘するところがないほどに緻密に作られた書類と、どこでどうやって入手したのかさえ不明な敵組織の機密情報が毎日確実に提出されてはいますがね、ええ」
「…そ。中也くん、試しにカメラとマイクを置いておくから、隣室で見てなさい。多分そろそろ来るから、あの子」
あの子、などとこの人、首領が呼ぶ構成員など、あいつの顔しか思い浮かばない。
「来るなら来るで、俺が待って「中也くんいたらそれ察して来なくなっちゃうかもしれないからさ」…?そんなことありますか?」
「部屋の中に誰がいるのかくらいバレてしまうよ、あの子には」
それは、索敵能力に秀でているのでは…なんて少し感心しかけたところで、本当にパソコンとヘッドホンを渡されてしまい、隣室こと首領の私室にお邪魔させていただいてしまう。
そのまま少ししたところで、本当に首領室へと響くノック音。
急いでヘッドホンを耳に当てると、驚くことに見張りの黒服が捌け…やけに、威勢の無い俺の部下が首領の前に現れた。
『……今日、のです』
「…どこで仕事してたのさ」
『?拠点ですけど』
「君の上司は今日も探していたけれど?」
『…やっぱ、り…あの、辞めた方が、いいですか』
辞める?
やっぱり?
何を言ってるんだ、こいつは。
「何、中也くんに言われたの?」
『中也く…あ、あの人はそんなこと言わな………言、う…かなって』
消え入りそうな、声だった。