第2章 桜の前
ペタ、と尾を地面に付けてしまえば、簡単にその人に更に腕を回されてしまう。
ピクピクとそれに反応して耳を動かしてしまうのだけれど、なんだか擽ったい気持ちだ。
波打つように尻尾も揺れてしまう…好きだなぁ、ここ。
「ああらら、リアちゃんすんごい嬉しそう…ねえ、私殴られ損なのだけど、リアちゃん私には懐いてくれないの?」
『太宰さんとかとっくの前からこんな感じでしょ』
「…デートしようよ?今から」
『ボディーガードもご一緒していいなら行ってあげるけど?』
「やっと雇ったのかい?シークレットサービス…一体誰に頼ん…?…あれ?待ってリアちゃん、もしかして君……え、まさかそいつ!?」
ようやっと、私が今ポートマフィアに所属した上でこの人と一緒にいる理由に合点がいったらしい。
太宰さんの割には遅かったな。
『ああ、そういえば嫌いなんだっけ太宰さん?忘れてた』
「リアちゃん、こいつだけはやめ時なってあれほど…なんでよりによって中也なのさぁあああ!!!?」
「?おい、どうして当時の組織内の人間しか知らねぇような俺らの仲までお前が知ってる」
『ひーみつ』
「…何か隠してんだろ?まあいいけどよ」
不審に思われはしていないらしい。
変な人。
『で、どうするの太宰さん?デートするの?』
「……またの機会にするよ、今私鬼から逃げてる最中だし」
『まぁたお仕事サボってるんでしょ?いいサボり場所教えたげよっか』
ええっ、どこどこ!!?
と簡単に…と言うより食い気味に聞いてくるこの人。
さすが、よく分かってる。
『港の造船所』
「おおっ、確かにあの辺なら鴨居もリールも海もある!!!」
『コンビナートにも行きやすいわよ?』
「俺より太宰の扱い酷くねぇか…?」
自殺主義者にはうってつけだろう。
嫌いじゃないよ、逆だ逆。
『大丈夫よ、どうせ生きてるから』
「でもねえ、最近の私のトレンドは心中なのだよ…探偵社の下の階の喫茶店あるでしょ?あそこの女中さん口説いてるのに全然なびいてくれないんだけどどうしてだと思う?」
『どうせまたツケでも滞納してるんでしょ。なんなら私にだって返していいのよ?その“ループタイ”』
「これはもうもらったものだからいいでしょー」
まあ、いいけど。
「お嬢様?こんな男と出掛けなんざせずに俺と一緒にどうですかコラ」
『…い、いけど』