第8章 タイムリミットとクローバー
濡れた衣服をとっとと脱衣所で乾燥機にかけ、そのまままた風呂場に戻り、湯浴みにご一緒させてもらう。
のだが。
「…抵抗ねえの?」
『……嫌なこと、された事ないもん』
「あ、ああそう」
超恥ずかしそうだけど。
つかタオルくらい持ってきてやった方が良かったよな!?
女心分かってねえにも程がありすぎるだろ俺!!
「あ、あの…良かったらお前の分もタオル持ってくるけど」
『…中也さんは、嫌?』
「嫌じゃないですけど死ぬ程緊張しますね、ええ」
『緊張してくれるんだ?』
「そりゃお前、気になってる女といきなり裸の付き合いってそんな……ッ、!?」
ふにゅん、と腕に伝わる間抜けな完食。
腕だけじゃない、明らかに柔らかい塊がそこに押し付けられている。
『…覚えて、リアの身体』
すう、と鱗の消えていく脚。
人間の姿に戻ろうとするそいつの身体に、思わず目を瞑る。
「お、お前そういうことは…、っ」
好きな奴は、俺だった。
そもそも、恐らくこういうことをするのは俺たちにとってはとっくに当たり前の触れ合いで。
『……先に、既成事実作っちゃえば…中也さん優しいから、他の人のこと見ないでしょ』
「…知識しかねぇけど」
『知ってる…好きにして』
彼女の頬に触れて、俯かせていた顔を上げさせると目を瞑られた。
こんなに震えといて、何が好きにしてだ。
いや、信頼してくれているからこそなのだろうか。
「失礼、しますねそんじゃ」
柔らかくて、ふっくらとした彼女の唇を指で撫でてから、覚悟を決めてそこに口付けて。
向き合うって決めた。
決して、逃げないと…この子の気持ちを、無視しないと。
記憶のない俺を特別に扱うことを、やめてくれたんだ。
こっちだって、それに報いてやらなければあまりにもこの子に失礼ってものだろう。
よく見ると、身体中のそこかしこに紅い華を咲かせていて、相当に求めあっていた関係であることくらい…自分の身体を見ても、一目瞭然じゃあないか。
「その印、全部俺の?」
『ひん、ッ…ぁ……そ、そう…全部中也さんのっあ、ッ♡』
胸の膨らみに吸い付いて、湧き上がる対抗心にそれを上書きする。
あ、違う、こいつが好きなのは先にもっと解す方の…
唾液を乗せた舌で、柔らかくなるまで舐めて、少しずつ吸って、しつこくしつこく、印にしていく。
『なん、っでそれ…ッ!!?』