第6章 スカビオサの予兆
心に思いはしたものの彼女にそれを拾われ、問われることはなく、そのまま眠りに着いたのを確認する。
そしてふと思ったのが、俺じゃなく反ノ塚であっても、寝かしつける時にはこの少女を愛おしく思い、休ませてやりたいと願ってしまうものだろう。
だから、どんな形であれそういう愛を感じながら眠りたかったんじゃないか、なんて。
悟りの先祖返りの血を肯定したかったんじゃないかって、今になって思う。
それほどまでに、嫌なものを見て、浴びせられてきたのだろうから。
なんて、こちらもつられて眠気にあてられてきたところで仕事用の携帯が震える。
そこには首領からの新しい指示と、組織内の現状が記されており、意図せずしてうちの姫さんに散々やってくれていた一党共が姿を消したという情報が入ってきた。
まあ、こいつに面見せねぇならそれに越したことはないが…それなら、殺るのは組合や探偵社とのいざこざが片付いてからになりそうな……
ふと、嫌な文字が視界に入ったような気がした。
それも、俺がこの世で最も嫌いな三文字が。
リアの予知によって次の動きがいくつか予想されていたもののうちから、どれになるのかが先程確定する事態が起こったらしく、こちら側にも大勢の犠牲者がでるであろうことが記されている。
また、探偵社の人虎・中島敦が組合に攫われ泉鏡花が軍警に……っておいおい、これじゃあ、マジでリアの作戦通りじゃねえか。
____多分、太宰さんもそれを選びますから。
今後の動きを決める上で、彼女が選び抜いた一つのプランをどうして選んだのか、首領が問うていた。
勿論俺もそれには疑問があって、無駄に犠牲を出したりするのを嫌うリアがどうしてなのかと。
それも、その探偵社の太宰の親しい奴らを陥れるような陽動をだ。
が、彼女には太宰治に対する絶対の信頼があるのは確かなもので、その一言に首領は納得、サラリと作戦を通してしまったのである。
どの道Qを奪われる道に踏み入れてしまった時点で、甚大な被害は免れなくなったのだと彼女なりに考えを冷静に切り替えた結果だ。
まあ、だからこその、太宰の護衛なのだが。
「…この心配症め」
あいつの生命力はゴキブリを通り越してクマムシ並だっての。
それに…
「俺がお前のこと置いていなくなるわけねえだろ…阿呆」
そんなクマムシの相棒だぞ、こっちは。
舐めんなよ。
