第5章 蛋白石の下準備
「頑張ったよほんと…ありがとう。……そんなに頑張られちまうと俺の方がなんか情けなくなっちまうくらいだわ」
『情けなくない。…、私に、合わせてくれてるだけだから』
まあ、バレてるわな。
聴こえてるということはそういうことだ。
俺がその立場なら、えげつなくきついレベルのもんなはずだが。
「お前、…その……こんなことしてる時に俺の考えとか全部聴こえちまって、それでも俺でいいわけ?本当に」
『…善くなっちゃうまで愛してくれるんでしょう?』
何を今更、なんて言うように少女は俺に返してくる。
なんだこいつ、天使か。
知ってた。
「…!…お前もしかして、それで俺の分まで感じ取っちまうからそんな敏感なのか?」
『……多分。…うん、そうかもしれない……中也さん、まだ我慢してるからマシな方だけど…一回、凄いのあったから』
言わずもがな、恐らくその相手は太宰の野郎なのだろうが。
名前を伏せているあたり、彼女なりの配慮だろう。
気にしなくてもいいのに、過去のことは。
「…お前、俺が大人で良かったな?」
『!…、…えへへ、…大好き…』
「うお、ッ…!?…ったく、…ほんと、可愛い」
まあ、そろそろ服は着てもらうけどな。
雰囲気を無理矢理ぶち壊してでも着せる。
じゃないと俺がやばい、本当にやばい。
『お許しくださいお殿様〜ってやつ??』
「違う、それ絶対違うから」
『好きな人相手にはするって聞いたよ?』
「お前それ蜻蛉からの入れ知恵だろ」
『うん、よく分かったね…?』
聞かなくても想像つくわ。
浴衣を羽織らせてやろうとすれば、何故だかそれに応じてくれないこのお嬢様が今何を思っているのかは想像つかないのだが。
「…おい、浴衣。袖通せ」
『…中也さんと一緒の浴衣入る…♡』
「あぁッ!!!?」
『抱っこしてくれるなら、リアのこと暖かくしてくれるんでしょう??あっ、これ主人命令だから』
そんな話聞いたことねぇぞ、思いつきでんなこと考えるとか天才かこいつ。
しかし、そのまま彼女に浴衣の背を合わせてやれば、妙に恥じらいながらそれを拒まれる。
『………あの、…そ、そうされると…あ、朝中也さん、体隠せなくなっちゃうから……逆に、してください』
「…お前本当ピュアだよなぁ」
そこまで想像したのかお前は。
そんな顔で強請られっと聞かねえわけにいかないだろ。