第5章 蛋白石の下準備
「そ、うか。…それなら良かっ……!?お、い夏目…てめ、リアになんてもん渡してやがる!?」
「えー?本人使い方分かってないし丁度いいかなと思って。なんなら毎度カゲたんからもらう鞭もいくつかもらってくんない?」
「それ以上はやめろリアが穢れる…」
いつものような声色。
先程彼を拒んでしまった手を、明かりのついたそちら側へと伸ばす。
ほんとは欲しいの、欲しくて欲しくてたまらないの。
一人じゃダメなの…ダメなんだよ、私。
ごめんなさいって言えない。
ありがとうって伝えられない。
大好きだって、愛してるって、音にできない。
しちゃいけない。
私にはもう、その資格は無い。
何にすがりついているのだろうか。
分からないけれど、求めていた。
どうすればいいのか分からなかった。
私はこんなにも、何も知らない。
そっ、とゆっくり重ねられる素手の感触。
それにビクリと手を跳ねさせれば、スル、と指を絡めてから…伸ばしていた左手の小指に、これみよがしに店で外してきたはずの指輪が付けられた。
彼の方から、付けられてしまった。
…何それ、逃がす気なしって言ってんの…?
頭おかしいんじゃないの、こんなのにまだ構うなんて。
こんなのに、まだその気をもつ許可をくれるだなんて。
「……これ、忘れもん?それとももういらねえ?…いらねえんなら、俺一生一人やもめになっちまうんだけど」
『…い、じ…わる』
残夏君の背中から出て、軽く引かれる彼の胸の中に、ぽすんと吸い込まれるようにおさまった。
「ん?…やっとこっち来た……真っ赤っかじゃねえか、目ェ痛くしやがって」
片膝をついてしゃがんだ彼は、また困ったように笑う。
笑う…笑ってくれてる。
そんな顔をされるから、私はもっと泣きそうになるのに。
なんで、なんで貴方はそんなに強いのよ…なんで私より傷付いてるはずなのに、私の心配ばっかりするのよ。
『き、っ…らぃ、じゃ……な、いの…ッ……、ちがう、の…ちが、…っ…ちがぅ、…!!』
ボロボロだ、これじゃ。
折角落ち着けたのに。
折角、泣き止んでたのに。
簡単に…しかし力強く抱きしめてくれてしまうから、我慢できなくなってしまうのに。
「分かってる…分かってるから。…どうしたんだよ天才リアちゃん?俺が本気でお前に嫌われてると思ってるとでも思ったか?」
『ん、ッ……嫌ってよ…っ』