第3章 誰そ彼時のエンジェルイヤリング
『ねえねえ私の彼氏さん、お風呂入ろう?』
「お前発熱酷いからダメ。明日の朝なら入れてやる」
『ケチ』
「そうだな、ケチだから今日は一緒に寝てやらな…冗談だって」
布団に入るのに袖付きのものを着るのが嫌だと駄々をこねる彼女になんとか言い聞かせて部屋着を着せ、それから。
部下の報告書をまとめてデータにしつつ、そいつに適度に構ってやる。
…よく話しかけてくるようになったな、こいつも。
少しいじめてみるだけですげぇ耳垂れてるように見え…いや、耳生えてっし、どうしたどうした。
『……大人しくしてる』
「いや、大人しくとかしてなくても…あー、風邪ひいてるから大人しくしとくべきなんだけど、さっきのは冗談だぞ?俺だってそんな器小さくねぇし」
『…』
すげぇ見てる…パソコンの方。
そんなに気になるのか、こいつは。
いや、確かに態度の割には入社当所から有能だったが。
態度の割には。
…どこぞのクソ鯖を思い出すな。
「なんだよ、見てても面白くねぇだろ?こんないつもの業務」
『リアがやった方が早いもん』
「そのリアさんが風邪でダウンしてやがるから今こうして二人分仕事進めてんですが」
『…だから、リアがした方が早いってば』
やけに、噛み合わねぇな。
もしかしてこいつ、仕事よこせっつってんのか?
「お前、熱下がるまで仕事させねえから」
『それ仕事じゃない。ただの報こ……連絡帳』
「物は言いようだな。寝込んでるやつは黙って寝ろ」
『……抱いてくれたらそうしてあげる』
「ブッッ、…!!!!!?!!?」
突然言い放たれた衝撃の一言に吹き出した。
何言ってんだこいつ、お前は経験あってもこちとらそんな経験ねぇんだよ。
…いや、興味が無いとも言えないが?
しばらくむせ返ってから彼女の方を向くと、伏し目がちになって俺のリアクションを伺っているようだった。
まて、どっちだこれは、どっちなんだいったい。
本気か?本気だったのか??
ガチで誘ってるやつなのか?それは。
それなら答えてやるのが男ってもんか?
女に恥をかかせるのも…いやいやいや、まてまてまて。
『黙って寝ろなんて、…やけに、つ、突き放すじゃない…です、か』
しかしそんな忙しい脳内も、彼女の一声で静まり返る。
…まさか俺、からかわれたんじゃなくて…こいつのこと、寂しがらせたのか?