第10章 【親友とは】
「ハグリッド、いるー?」
「おお、お前ぇさん達か!」
ドアをノックすると、直ぐにハグリッドの明るい声が聞こえた。続いてファングがウォン、ウォンと鳴く声が聞こえてきた。これだ、これこそ平穏な午後の響きだ。
しかし、ガチャッと扉が開いた瞬間その平穏はどこか遠くへ消え去って行った。
「ハグリッド、久しぶ――」
ハリーはそれ以上口がきけなかった。何しろハグリッドの格好と言えば、一張羅の古い茶色の背広を着て、窮屈そうな黄色と橙色の悪趣味なネクタイを締め、おまけに油を塗ったのか、テカテカに光った髪を無理やり1つに縛っていた。
あまりの不格好さに、4人は氷漬けになったかの様に固まった。
「ハ、ハグリッド、その恰こ――」
「――そういえばっ、ボーバトンのペガサスはどうしたの?」
「おお、あのペガサス達は……その……」
「その?」
「マ、マダム・マクシームのいる馬車の隣りに作ったパドックにつないである」
「ふーん」
クリスは窓から見えるボーバトンの巨大な馬車を見た。ここからなら見通しが良いから馬車が丸見えだ。
もしかして――嫌な予感がクリスの胸を駆け抜けた。どうか杞憂で終わって欲しい。だがそう願うと大抵、事は嫌な方向へ転がり始めるのだ。
クリスを除いたハリー、ロン、ハーマイオニーの3人は、椅子に座って『三大魔法学校対抗試合』の話題に夢中になった。良かったのは、クリスが無様にもエントリーしようと躍起になっていた事を話題にされなかった事だ。もしここでまた話しをぶり返されたら、また気分が沈んでしまう。
5人分のお茶が入ると、ハグリッドも座って話に混じった。『三大魔法学校対抗試合』を楽しみにしているのは4人だけではなく、ハグリッドも同じだった。
「すげえぞ、第一の課題は――っと、これは言っちゃいけねぇんだった」
「なんでよ、教えてよハグリッド」
「言ったらお前ぇさん達の楽しみを奪っちまう。でも、第一の課題は特に楽しみだ。なんて言ったって――っと、あぶねぇあぶねぇ、また言いかけちまった」
それから4人でハグリッドをおだてて第一の課題を聞き出そうとしたが、ハグリッドは笑ながら教えてくれようとはしなかった。ただ生きている内に『三大魔法学校対抗試合』が見られるのが嬉しくて仕方ないと言っていた。