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ハリー・ポッターと闇の姫君

第1章 The summer vacation ~Remus~


「せ、先生は昔とあまり変わりませんね。優しそうだし。でもシリウスは昔の方がよっぽどカッコイイです」
「……ありがとう、君は本当に優しい子だね」

 そう言って、先生はローブを握ったクリスの手に、そっと自分の手をのせた。温かくて優しい先生の手、クリスはこの手が大好きだった。重ねているだけで、心が幸福で満ち溢れる。

「そういえば、この写真はどこから出てきたんだい?」
「あ……えっと、この本に挟んでありました」

 クリスが本を差し出すと、先生は「あぁ……」とため息まじりに頷いた。

「なるほど、ここに挟んであったのか。この本はね、僕の好きな絵本の1つなんだ」
「どんなお話なんですか?」
「ある森の中に1人の王子様が住んでいたんだ。そしてある日、その王子様の元に魔女がやって来て『一晩泊めてくれ』と頼む。しかし王子は魔女の醜い姿を見てそれを拒んだ。すると魔女は見かけにとらわれて、優しさを失った王子様を獣の姿に変えてしまう。そして1輪の薔薇を残し『この薔薇が散るまでに真実の愛を見付け、愛し愛される喜びを取り戻さないと永遠にその姿のままだ』と言って城に呪いをかけて去っていく。しかし王子は絶望する。醜い獣の姿をした自分を誰が愛してくれるだろうかと。だがそれから数年後、変わり者だが村一番の美女がこの城にやって来る。そして一緒に暮らしている内に、2人はだんだん惹かれ合っていくんだ」

 なんだか子供向けの話しとは思えないくらい、ロマンチックだ。魔法界のおとぎ話と言えば『魔法使いとポンポンとぶポット』とか『バビティ兎ちゃんとぺちゃくちゃ切り株』とか子供の教養向けの本ばかりで、ロマンティックな要素はあまりない。

「な……なんだかすごいロマンチックなお話ですね」
「そうだろう?しかしその娘の父親が、娘を心配して冬の森を探し回り、遭難している事を知る。野獣は美女と離れ離れになることを覚悟で父親の元に返すんだ。そして美女は村に戻る。それから美女に片思いしていた村の若者が、野獣の事を知り、嫉妬して村をあげて野獣を殺そうとやって来る。それを知った美女は城に戻り、なんとか野獣と再会するんだ。しかしその瞬間、若者に脇腹を刺され野獣は死の淵に追いやられてしまう。そして死に際、美女は野獣に『愛している』と告げる。だけどその時、薔薇が最後の一片を散らす……」
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