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ハリー・ポッターと闇の姫君

第1章 The summer vacation ~Remus~


「それから、どうなるんですか?」
「美女は野獣にキスをするんだ。するとたちまち光が野獣を包み、元の王子様の姿に戻る――と言う話しさ」
「はあぁ……何だか壮大なお話ですね」
「試してみるかい?」

 ルーピン先生が何を言っているのか、一瞬分からなかった。クリスは目を点にしてルーピン先生を見つめていた。

「君がキスをしたら、もしかして私の人狼の呪いも解けるかもしれないよ?」
「え?ええ?ええええっ!?」

 先生の大胆発言に、クリスはどうして良いやら反応に困った。笑い飛ばして良いのか、それともおふざけが過ぎると怒って良いのか分からなかった。ただ顔を真っ赤にして、あたふたしていた。その間にも、先生はクリスに身長を合わせると、目を閉じて、軽く唇を突き出した。

 このまま、先生とキスをして良いのだろうか。いや待て待て、先生はふざけているだけなのかもしれない。だって急にこんな事を言いだすなんて、いつもの先生らしくない。いや、ふざけていると見せかけて、本当にキスをしてほしいと思っているのか、それとも――クリスは頭がこんがらがってきた。

 クリスの心とは裏腹に、だんだんと先生との距離が短くなっていく。あと10cm……まだ引き返すチャンスはある。あと5cm……今ならまだ間に合う。あと3cm……ここまできたらもう!クリスはギュッと目をつぶった。

 ジュワーッ!というお湯の吹き出す音で、クリスはハッと我に返った。先生も目を開け、キッチンの方に顔を向けている。

「あ、いけない。お湯を火にかけっぱなしだった」

 そう言って、ルーピン先生はパタパタとキッチンの方へ行ってしまった。一気に緊張が抜け、クリスはヘナヘナとその場に座り込んだ。しかし心臓はまだバクバクいっている。

(しっ、心臓に悪い!!)

 いったい今のは何だったのか。神様の悪戯か、それとも悪魔の悪戯か。どっちにしてもクリスの頭はパニックで頭の中がぐちゃぐちゃになり、何も考えられなくなっていた。
 ――一方その頃、ヤカンを火からおろし、お茶の準備をしながらルーピンは密かに思った。

(ちょっとからかい過ぎたかな?)

 いけない、いけないと、小さくペロッと舌を出して反省する、元・悪戯仕掛人の姿がそこにあった。
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