第6章 【許されざる呪文】
「最後は……『死の呪文』です」
教室が少しざわついた。しかしムーディ先生はそれを気にも留めず、3つ目の瓶からクモを取り出した。クモは何かを予兆しているのか、まるで逃げる様に机の上を走り回ったが、ムーディに杖を突きつけられ、そして――――
「アバダ ケダブラ」
緑色の閃光がはしり、それがクモにぶつかったと思った時にはもう、クモは死んでいた。仰向けになり、ピクリとも動かない。
再び教室が静まり返った。まるでお葬式の様だ。下を向いたまま、皆が口を閉ざしている。ムーディ先生は死んだクモを瓶に戻した。
「これが『死の呪文だ』これに反対呪文は無い。が、これを受けて生き残った者が1人だけいる。その者は今、わしの前に座っている」
皆が一斉にハリーを見た。逆に、ハリーはどこに視線を合わせればいいのか迷い、視線は空中をさまよっていた。
『生き残った男の子』その肩書と同時に、ハリーはかけがえのない両親を失ったのだ。そう、今正に先生が見せた様に、瞬きすらする間もないほど一瞬で……。クリスは胸が締め付けられるような思いがした。目の奥がツンと痛くなり、今すぐハリーを抱きしめたい気持ちになった。
「さて、今見せた3つの呪文『服従の呪文』『磔の呪文』『死の呪文』これらは『許されざる呪文』と呼ばれ、同類であるヒトに対して使うとアズカバンで終身刑になる。お前達がこれから立ち向かっていくのはこういうモノなのだ。お前達にこれからこういう呪文に対し、常に理解し、警戒し、そしてある時は立ち向かわねばならん。しかし一番大切なのは“油断大敵ッ!!”――分かったら羽ペンを取れ」
それから残りの時間は『許されざる呪文』についてノートを取る授業になった。教室にチョークがかける音と羽ペンのカリカリという独特な音だけが響いた。誰も質問しないし、先生さえも喋らない。
やっと授業が終わるベルが鳴り、教室の外に出ると、今度は皆一斉に喋り出した。
「あのクモの動き、見たか?!」
「緑色の閃光がはしった時、俺、つい目をつぶっちゃったよ!!」