第6章 【許されざる呪文】
「お前は、ロングボトムか」
「はい。僕が知っているのは――『磔の呪文』です」
ネビルの声は小さかったが、いつもの様にどもっていたりはせず、ハッキリしていた。
ムーディ先生は2つ目のビンからクモを取り出し、机の上に乗せると呪文でクモを大きくした。その瞬間、隣りに座っていたロンがクリスに飛びついてきた。そうだった、忘れていたがロンはクモが大の苦手だった。
「この呪文を見せる為にクモを大きくした。皆、よく見ていろ。クルーシオ!」
呪文をかけられたクモは、まるで殺虫剤をかけられたゴキブリの様に暴れまわり、手足をバタつかせてひっくり返った。女生徒たちの何人かは小さく悲鳴を上げ、目を背けている。
異常だ、いくらクモと言えど、こんな光景を生徒に見せるなんて。やはりこの教師は長年『闇祓い』をしてきた所為で通常の人に比べ感覚が鈍っている。クモはヒクヒクと手足を痙攣させ、死ぬに死ねない苦しみにもがいている。
「もう止めて!!!」
見ていたハーマイオニーが、ついに悲鳴を上げた。しかしハーマイオニーはクモではなく、ネビルを見ていた。ネビルは両手で顔を隠し、指の間から大きく目を見開きクモを見ていた。
ムーディ先生がクモを元の大きさに戻し、再び瓶の中に入れると、ネビルは顔から手を離し、今にも叫び出しそうなのを押し殺す様にゆっくり息を吐いた。
「これが『磔の呪文』だ。この呪文を使えばどんな拷問器具も必要ない。ただ相手を苦しめる……単純だが、ある意味これほど恐ろしい呪文も無い。さて、最後は――」
ハーマイオニーとクリスだけが手を挙げていた。皆先程の呪文に恐れをなして委縮している。ムーディ先生の魔法の目がハーマイオニーとクリスを交互に見て、最終的に青い目と黒い目がクリスを捕らえた。
「――グレイン、最後の呪文はなんだ?」