第6章 【許されざる呪文】
まるでみんな珍しい見世物を見た様に興奮していた。しかし反対にクリスの気分は沈んでいた。いや、沈んでいると言うより、ムーディ先生に対してある種の怒りが燻っていた。
あんなものを生徒たちに見せて、変な気を起こす生徒が出たらどうするんだ。それに、ハリーを含め、ショックを受けた生徒も沢山いるはずだ。それなのに――クリスはギリっと奥歯を噛みしめた。
「ねえ、ちょっと待って」
ハーマイオニーの声を聞いて、クリスはふと我に返って足を止めた。彼女の視線の先には、ネビルがいた。廊下の隅で、ポツンと立って窓を見上げている。
「ネビル?大丈夫?」
「やあ、みんな」
ネビルの目は見開き、手は真っ白になるほどきつく握られている。それでもネビルは平静を装うと笑っていた。
「面白い授業だったね。今日の“朝食”は何かな?ぼく、おなかペコペコだよ」
「ネビル、何があった?」
「何もないよ?とっても面白い“朝食”――じゃなかった、授業だったよね。ぼく、“生涯”忘れそうもないよ」
「ネビル、一緒に医務室に行こう。マダム・ポンフリーに会った方が良い」
「その心配はない」
背後からムーディ先生の声が聞こえた。コツ、コツと廊下を固い義足で歩く音が聞こえ、クリスは反射的に身構えた。しかしムーディ先生の声はドラコを襲った時や授業中の声と違って、低いが少し柔らかい音が混じっていた。
「わしの部屋へ来ると良い。お前さんが興味を引く様な本が沢山ある」
そう言って、ムーディ先生はネビルの肩に手を回した。ネビルは逆に緊張して身を固まらせ、視線を落とし、ぼそぼそと何か呟いていた。
「お前は大丈夫だな?ポッター」
「……はい」
「むごいかもしれんが、知らねばならん。現実を受け入れる事は非情かもしれんが、起こってしまった事に背を向け、耳を塞いでも何にもならん。さあ、着いておいで。紅茶を入れてやろう」
ネビルの肩を抱いたまま、ムーディ先生は廊下を曲がって消えていった。
確かにムーディ先生の言う通りかもしれない。だが――クリスはどうしてもムーディ先生が好きにはなれなかった。理由を聞かれても言葉には出来なかったが、胸に燻った小さい炎が、何かを暗示している様な気がしてならなかった。