第6章 【許されざる呪文】
クリスが下を向いていると、両端から手を上げる気配があった。ロンとハーマイオニーだ。ムーディ先生はロンを指した。
「えっと、パパから昔聞いたんですけど、確か『服従の呪文』とかって……」
「うむ、その通りだ。お前はアーサー・ウィーズリーの息子だったな。それならその呪文を知っていてもおかしくない。一時期魔法省を大いに手こずらせた事があるからな」
ムーディ先生はクモが入った瓶を3つ取り出し、机の上に並べた。そしてその内の1匹を取りだし、手の平に乗せると杖を構えた。
「インペリオ!」
クモは一瞬ピタッと動きを止めると、糸を垂らしながら先生の手から飛び降り、ぶらぶらと振り子時計の様に揺れた。そして糸を切って机の上に立つと、今度は宙返りをし、器用に2本足で立ってタップダンスまで踊った。皆それを見て笑った。
「面白いか?」
ムーディ先生は至極真面目な顔つきだった。クモにやらせている事はユニークなのに、その声には面白味の欠片もない。低い、脅すような声だった。
「もしわしが、お前さん達を同じ目に遭わせたとしてもか?」
シーンと、水を打った様に教室が静まり返った。最早笑っている者は1人もいない。ムーディ先生はクモを瓶の中に戻した。
「この呪文を使えば、わしはお前さん達を意のままに操ることが出来る。窓から飛び降りさせることも、水に溺れさせることも、暖炉の中に飛び込ませることも出来る。――10数年前、数多くの魔法使いがこの呪文に支配された。誰が自らの意志で動いているのか、それとも操られているのか分からない。自分の家族でさえもだ。信じらるものは自分次第――しかしこの呪文と戦う事は出来る。だがこれは個人の持つ真の力が必要で、誰でも出来る訳ではない。後で早速実験してみよう。次、他に禁じられた呪文を知っている者はいるか?」
クリスは恐る恐る手を上げた。しかし心のどこかで当てられたくないと言う思いもあった。
再びムーディ先生の魔法の目がぐるぐる回って、今度は後ろの席に止まった。なんとネビルだった。ネビルが得意な『薬草学』以外で手を挙げているのをクリスは初めて見た。