第6章 【許されざる呪文】
「ははっ」と軽く笑いながらクリスが言うと、それまでネビルにつきっきりだったハーマイオニーが勢いよく振り返って叫んだ。
「スネイプ先生はダンブルドア校長が雇ったのよ!『元・死喰い人』だなんて事、絶対にありえないわ!!」
「じゃあ、なんでスネイプはムーディを避けてるのさ?」
「そんな事どうでも良いよ。あぁ、どうせならスネイプもカエルか何かに変身させて、地下牢中ボンボン跳ねさせてくれないかな……そうすれば胸がスッとするのに……」
ロンが先日の様に目をつぶって、妄想に耽り始めた。ハーマイオニーが付き合ってられないわとでも言うように、またネビルの元に戻って『ゴシゴシ呪文』を教えていた。
それから次の日、ようやくムーディの教える『闇の魔術に対する防衛術』の日がやってきた。グリフィンドール生の大半は、期待に胸をふくらませ始業ベルが鳴る前に生徒の列が出来ていた。ただ1人、ハーマイオニーを抜かして。
ハーマイオニーが教室に着いたのは、ベルが鳴るギリギリだった。肩で息をして、かなり慌てて来た様子だ。
「わ、私……ちこ……遅刻して――」
「いないよ。安心して、早く教室に入ろう」
ハーマイオニーの言葉尻をハリーが引き継ぐと、4人そろって一番前の席を陣取った。
ハリーとロンは興奮してどんな授業になるのかそわそわして、教科書を広げながらぺちゃくちゃお喋りをしている。ムーディ先生に良い印象を持っていないクリスは、頬杖をついて窓の外をジッと見ていた。すると、廊下の向こうからコツ、コツと廊下を歩く固い足音が聞こえてきた。間違いない、ムーディ先生がやって来たのだ。
始業式の時に見せたのと同じ恐ろしい姿で、ムーディ先生が教室に入って来た。相変わらず顔は無数の傷があり、鼻は削げ、唇は斜めに切り裂かれ、義眼の魔法の目はぐるぐる回って辺りを警戒している。しかし黒い普通の目は、生徒達をしっかりと捉えていた。
「全員、教科書をしまえ」
突然の宣言に、生徒達は声を上げる事も忘れた。隣りでは、ハーマイオニーが去年の初め『占い学』で見せた時と同じような顔をしていた。教科書を使わない授業とは、ハーマイオニーにとって衝撃的な大事件と同じなのだ。
しかし他の皆はいったいどんな授業をするんだろうと、眼を輝かせた。