第5章 【弾むケナガイタチ】
「あの顔は何だい?しかめっ面してまるで一日中臭いトイレの中にいるみたいじゃな顔じゃないか。それとも、お前の家のトイレが臭すぎて表情筋が固まってしまったのか?」
あのナルシッサおば様の顔を見て、よくそんな事が言えたなと、クリスは驚き半分関心してしまった。それまで笑みを浮かべていたドラコだったが、急に表情を変え怒りに震えていた。
「貴様……よくも僕の母上を侮辱したな」
「これでお相子だろ?父親も馬鹿にされたくなかったらその口にガムテープでも貼っておくんだな」
ハリーが捨て台詞をはいて、背を向けた瞬間――バーンッ!!と大きな音がして、ハリーの耳元を白い閃光がはしった。ハリーはローブに手を突っ込み、杖を取り出して応戦しようとした矢先、再び後ろからバーン!と大きな音が聞こえてきた。
「何をしている!!この大馬鹿者がっ!!!」
振り返ると、ムーディ先生が杖を手に、生徒の波をかき分けこちらに向かって来ているところだった。ドラコの居たところには誰も立っておらず、その代り白いケナガイタチが倒れている。ムーディ先生はケナガイタチに杖を突きつけている。青い魔法の目がぐるぐる回って、辺りを調べている様だった。黒い普通の瞳がハリーの方に向いた。
「怪我はないか?」
「かすっただけです」
「そいつに触るな!!!」
「えっ!?」
「お前に言ったのではない、あいつだ!」
青い魔法の目が真後ろを向いており、ムーディ先生は親指で後ろをさした。今しがたドラコが居たところに倒れているケナガイタを、ゴイルが拾い上げようとしていたのだ。突然指さされたゴイルは、固まったまま動けなくなっていた。驚くことに、ムーディ先生の青い魔法の目は真後ろまで見通せるらしい。
ムーディ先生は再びケナガイタチに杖を向けた。ケナガイタチは空中に2、3メートル浮かんだかと思うと、一気に床に叩きつけられた。
「敵が背を向けた時に攻撃するとは、なんて卑怯な!」
何度も何度も、ムーディ先生はケナガイタチを空中に浮かび上がらせては、床に叩きつけた。クリスは心臓がギュッと握り締められていくような気分がした。――あれはきっとドラコだ。ドラコが痛めつけられている――そう思うと、クリスはいてもたってもいられなくなった。