第1章 The summer vacation ~Remus~
そう言って、先生はクリスの腕と自分の腕をぎゅっとからませた。まるで恋人同士みたいで、クリスは顔が真っ赤になるのを感じた。
しかし次の瞬間、そんな悠長な事は言っていられなくなった。まるで体が無理矢理ゴムになって引き伸ばされ、細い管を通って行くような感覚がした。正直、かなり辛い。だがそれも一瞬の内だった。パチンッとはじける音と共に、クリスは今までいたレンガ通りではなく、ふわふわの草の上に立っていた。
「さあ着いたよ、ここが私の家だ」
「わあ……!」
クリスは感動で言葉が出なかった。森の中に立派なログハウスが立っており、その周りには幾つも畑があって、色々な植物や野菜が植えられていた。畑の傍には頭の大きなガイコツにローブを着せたお手製のカカシが立っており、その隣には小さな井戸があった。
「素敵なお家ですね!」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ、さあ中に入って」
言われるがまま中に入ると、クリスは色んな意味で圧倒された。家の中は散らかっている、と言うより物が多過ぎる印象があった。あちこちに本が積み重なり、いろんな引き出しからは羊皮紙が溢れて飛び出ている。
ダイニングテーブルには椅子が4つあるが、肘掛け椅子からだたの丸い椅子まで、全部椅子の種類がバラバラだ。統一感があると言えば、これら全部木で出来ていると言う所だろう。
「汚くてごめんね、まさかお客さんが来るとは思わなかったから」
「いえっ!良いんです、気にしていませんから!」
「そうかい?今お茶の準備をしているから、奥の部屋で本を探しておいで。きっと他にも君の興味を引く本があるはずだ」
「は、はい!」
クリスは緊張して、奥の部屋に入った。そこも圧倒されるほど、本の山でいっぱいになっていた。壁一面に大きな本棚があり、その脇にも小さい本棚が幾つも並んでいる。少し整理した方が良いと思ったが、先生はもしかしたら捨てられない症候群なのかもしれない。
クリスは恐る恐る壁の本棚に近づいた。もし少しでも振動を与えようものなら、一気に本が雪崩れてくるような気がしたからだ。
そっと近づいて、クリスは『風見鶏』で見かけた本を探そうと思ったが、本の数が多すぎて一向に見つけられそうにない。諦めて、クリスは端から順番に本を見る事にした。