第1章 The summer vacation ~Remus~
「せ、せせ先生は、どどどうしてここに?」
「僕も買い物にね。ここは古いけど面白い本が沢山あるから。クリスは何を買うんだい?」
「え、えと……こここれです!」
クリスは持っていた本をズイッと前に差し出した。ルーピン先生を前にすると、普段は不遜なクリスもたちまち舌が回らなくなって体が固まってしまう。
ルーピン先生は本を見ると、朗らかな笑顔を見せた。
「なつかしいな、この本は私も読んだ事があるよ。確か……まだ家にあったはずだ。良かったら家によって行かないかい?わざわざ買わなくても、私が貸してあげるよ?」
「え?いいいい良いんですか!?」
「うん。それにこれからお茶にしようと思っていたんだ。良かったら一緒にどうだい?」
「もちろんです!是非ご一緒させて下さい!」
まさか先生に会えるだけでなく、お茶にお呼ばれするだなんて――やっぱり、私と先生は結ばれる運命なのね――と、クリスの妄想は暴走していた。
「それじゃあ、僕の買い物が終わるまで待っていてくれるかな?すぐ済ませるよ」
「いえっ!ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう、それじゃあお言葉に甘えて」
それから先生は、何冊か本を手に取ってはパラパラと中身を確認していた。その姿を、クリスはぼーっと眺めていた。
ハッキリ言って、先生はカッコ良い外見とは言えない。ローブは継ぎはぎだらけだし、鳶色の髪は白髪交じりだし、目の下にはクマが出来ているし、体中には自分が狼になった時に引っ掻いた傷跡がたくさん残っている。おまけに年はクリスの親と大して変わらない。それでも、クリスにしてみれば白馬に乗った王子様より恰好良く見えた。
「お待たせ、それじゃあこれを買ってくるから先に外で待っててね」
「は、はい!」
見つめていた事がバレやしないかと、クリスは内心ドキドキだった。しかし先生は何事も無かったようにカウンターにお金をのせると、ジェフじいさんを起こさない様に静かに店を出た。
「それじゃあ行こうか」
「あの……先生のお家ってここから近いんですか?」
「ん?遠いよ。だから『姿現し』で行くんだ。大丈夫、君は私につかまっていれば良いから」
「こう……ですか?」
「もっとしっかりつかまらなきゃ危ないよ。ほら」