第34章 【運命の歯車】
翌日になっても、クリスは医務室のベッドから一歩も出ず、昏々と眠り続けた。そして決まって同じ夢を見た。
夜の帳が落ちた闇の中、あの墓場で父が自分を庇って死んだ瞬間の夢。緑色の閃光を浴び、ゆっくりと倒れるクラウスの姿。クリスは必死に手を伸ばすが、あと一歩というところで届かず父を置き去りにしたと言う現実が見せる残酷な夢――。
そんな夢を見るたび、クリスは額に脂汗をかきながらハッと目を覚ました。毎夜こんな事の繰り返しだった。
泣き腫らしたクリスの目に、再び涙が浮かぶ。クリスは頭から布団をかぶり、膝を抱えて夜が過ぎるのを待った。そして朝になると、やっと眠りについた。
助かったのは、あれからマダム・ポンフリーが面会謝絶にしてくれたお蔭で、誰とも顔を突き合わす事が無くなった事だ。
今のクリスにとって、これほど有難いことはなかった。今は誰にも会いたくない、そっとしておいて欲しかった。
しかし、1週間後の終業式の日。こればかりは流石のクリスも出席しなければならなかった。好奇心の目に晒されたくないクリスは、時間をずらし、なるべく遅く大広間に向かった。
大広間に一歩入った瞬間、皆こぞってクリスを横目で見てはあれこれ耳打ちをして噂しあった。だがそれも長くは続かなかった。ダンブルドアが立ち上がり、皆の目を自分に向けさせ噂話しを終わらせた。
「全校生徒の諸君――」
毎年笑顔で迎える終業式の日も、今回ばかりはお祭りムードとはいかなかった。いつもなら寮対抗試合に勝った寮の垂れ幕が下がっているのに、今日は黒い垂れ幕が下がっていた。きっとセドリックの為だろう。
「今日は大事な話をせねばらん。先ずはそう……皆も知っておると思うが、セドリック・ディゴリーの死を悼もうともう」
寮テーブルのあちこちで、すすり泣く声が聞こえてきた。クリスはグリフィンドール寮の末席に座りながら、チラリとレイブンクローの席を見た。泣いている生徒達の中でも、ひと際ボロボロと涙を流すチョウ・チャンを見て、クリスは心が痛んだ。